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《2003.1月−1》

典型的な◇日本ミュージカル
【キス・ミー,ケイト (東宝・博多座)】

作:サム&ベラ・スプワック 演出:吉川徹
5日(日) 12:00〜15:10 博多座 4200円


 典型的な日本ミュージカルで、気楽に観ればそれなりには楽しめるが、少しまともに見ていけば日本ミュージカルの欠点ばかりが目につくという舞台だ。
 先月聴いた演出家セミナーのレクチャーで青井陽治さんが言われた日本のミュージカルの欠点がそのまま出ている。また私は2001年1月にブロードウェイでトニー賞を受けた舞台を観ているので、青井さんの言われることはいやというほどわかる。

 舞台は劇場。プロデューサーでディレクターで主演俳優のフレッドと主演女優リリとは1年前に離婚したばかり。そのふたりがよりを戻すところを、劇中劇の「じゃじゃ馬ならし」と進行とからめながら描く。
 準主役のビルとロイスのカップル、借金取りたてのギャング二人組、リリへの求婚者ハウエル将軍などがからんで迷走するが、結末は当然にハッピーエンド。

 どういうところが日本のミュージカルか。
 俳優の鍛えられた表現がないことがいちばん大きい。鍛えられたダンスも歌もないから、緊張感に欠けていてどっと引き込まれることはない。それを華美な衣裳などのチャラチャラの飾りでごまかそうとするから、何とも締りのない舞台になってしまう。
 演出がかなりメチャクチャで、手のひらを上に向けて首をすくめるような定型パターンの不自然なしぐさの何と多いこと。振付も、例えば群舞ではみんなでそろえるのがやっとで、ダンスでの役の個性の表現などとてもとても。歌でストーリーを展開することもできてはいない
 一路真輝のスター芝居だから、本来のミュージカルの楽しさを求めることが無理なのか。

 俳優の演技力のなさにもかなりうんざりだ。
 フレッド(鈴木綜馬)が何とも軽く説得力が弱いのが致命的だ。それなりの迫力があってこそ一路真輝も生きるはずだから、ミスキャストとしか言いようがない。
 ギャング(伊吹吾郎、太川陽介)にはすっとぼけたユーモアがまったく不足している。ふたりのナンバーの何とつまらないことか。

 結果、演劇的な楽しさ・感動の質が低いということになる。それなりに見せるだけの舞台とちゃんとした創造的な舞台とでは与えてくれる感動の質が全然違うのだ。その差は見比べなくてもブロードウェイ・キャストによるCDを聴いただけでもすぐにわかる。
 これがことし初めての観劇。かなり空席が目立った。


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