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《2003.1月−7》


【サイコパス 木村伝兵衛の自殺 −熱海殺人事件 最終Ver.−  (東京☆BUZZ STYLE)】

作:つかこうへい 演出:うしじまこうすけ
17日(金) 19:30〜21:20 ぽんプラザホール 1200円


*** 推 敲 中 ***

 「熱海殺人事件」は何という重たいところまで来てしまったんだろう、木村伝兵衛の自殺もやむを得ないか ― と思わせる大きな構成の戯曲に救われた、という舞台だ。演出も演技もまだまだなのに、上演しようという意欲だけで引っぱっていくという風情。そして何とか完走した。

 かって、つかこうへいの作品はド派手な演劇の代表として現在活躍している多くの演劇人に大きな影響を与えた。この上演は、つかの戯曲の特質を捉えないままやみくもに積み上げており、思い込みはあってもほんとうに影響を受けたのかどうか疑わしいというレベルの舞台だ。
 つか戯曲への取り組みとしては弱く、演出も演技もよたよたという印象さえあり、つか作品らしいテンション、切れ味は希薄で、つか戯曲の持つおもしろさは出てこない。  にもかかわらず、曲りなりにも完走したことが、つかがこの作品に仕込んだ大きな構成をおぼろげながら見せてくれた。

 この「熱海殺人事件」最終バージョンは、刑事が立派な犯人、立派な事件を仕立て上げるという「熱海殺人事件」の枠組みをはみ出していて、刑事自身が事件に大きくかかわる。その事件は、事故で被爆したナガサキツシマ被爆を抹殺しようとする国家の陰謀という大きなスケールだ。そして、女性の水野刑事を除き死んでしまうという激しさだ。

 どうなのだろうか、リアリズム的にはよほど書き込まないと人物の幅は出てこないが、つかの人物はまったく印象が違う。
 榊原刑事は神戸の事件のサカキバラこと元少年A、犯人は被爆した原発従業員で母を買春し殺す大山金太郎、水野刑事は政府要人の娘、と人物が象徴的で、その持っている幅が広いのだ。人物が関係を作るのではなくて、関係の中に人物が入っていく。だから、それぞれの人物の関係は偶然すぎるほどなのに、偶然と思わせない説得力がある。

 もうひとつつか戯曲に特徴的なことは、そのセリフのことばが想像力が膨らませること。観客の想像力を信じていて、それに強烈に働きかけることばで引っぱっていく。
 そのことばは広く重い。この舞台はそういう面では観客の想像力をほんとに刺激するところまでは行っていない。

 この舞台は2ステージ。私の観た回は半分くらいの入りだった。


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