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《2003.2月−6》

ダイナミックな舞台は☆いいけれど
【赤鬼 (TPWカンパニー)】

作:野田秀樹 脚色・演出:安永史明
9日(日) 13:05〜14:30 ぽんプラザホール 1000円


 この舞台、全体的にきちんとしたつくりで、工夫も生きていて楽しめた。ただ、オープニングのダンスの下手さにはがっくりきたが。
 野田秀樹の戯曲のなかでもわかりやすいといわれる「赤鬼」だが、再「脚色」されたことでどう変わったのだろう。原作戯曲を読んでいないし、NODA MAPの舞台も観ていないのでそのあたりはわからない。

 外国人の赤鬼が砂浜に漂着する。赤鬼はそれまで村人に差別されていた少女・あの女 と仲良くなる。村人は赤鬼を殺そうとする。あの女、女の弟・とんび、女をかばうミズカネ、赤鬼の4人は、舟で海のむこうへ向かう。
 そして遭難したかれらは、死んだ赤鬼を食べて生き延び、再び村に戻る。赤鬼を食べていたことを知った女は自殺する。

 差別がテーマだが、あまりこだわらずそこに突っ込んだ表現は多くない。むしろ変転するストーリーを追っかけるのを楽しんでいる風情だ。
 その形状が工夫された舞台いっぱいを使ったダイナミックな表現はいい。群集シーンなどの構成も練り上げられている。
 赤鬼の声のエコーや裁判官の量りつきの帽子などのていねいさな工夫が効果を上げている。

 俳優の演技は、寓意に満ちたこの作品では形から入ったことがある程度成功している。思い切りのいい演技にまでなっているのがいい。個別には、赤鬼役の Jan Ellis が圧倒的な存在感。あの女の 阿部愛理 の赤鬼との心の通い合いの表現、ミズカネの 川口大樹 の揺れ動く心情の表現もいい。とんびはやや難しかったか弱い。
 舞台は、正面に大きな洞窟の口があり鬼の面を想起させる。客席に大きく円形の舞台が作られ、俳優は客席の平面に腰を降ろして出番を待つ。
 客席は円形舞台のまわりに80席くらいだろうか。

 台本についてちょっと気になったのが、原作戯曲の「脚色」。ももともと上演用の戯曲なのを、役を増やすための勝手な改変が許されるのだろうか。勝手な改変が作者に失礼だと思わないのだろうか。そのあたりの感覚がわからない。改変した台本の上演を原作者が承認しているのならまだいいけれど、そのような手続きはきちんとなされているのだろうか。気になるところだ。
 NODA MAP番外公演「赤鬼」は出演者4人の芝居で、1996年初演。1997年と1999年にタイ語版を上演。2003年1月31日から英国公演中で、2月22日までロンドンで上演される。

 この劇団TPWカンパニー(TPWはTheater Production Workshopの略)は、福岡市文化芸術振興財団主催のワークショップの参加者で立ち上げた劇団だということだ。演劇制作ワークショップと言われていたから劇団の制作者養成のワークショップかと思っていたが、演劇づくり全般に係るワークショップだったらしい。そのような内容の長期間にわたるワークショップの効果はこの舞台に表れていた。

 開演ぎりぎりに駆け込んだら立ち見になってしまった。
 この公演はきのうときょうで3ステージ。私が観た回は超満員だったが、たぶん出演者の関係者が多かったのだろうか、観客の反応は鈍かった。


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