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《2003.5月−4》

じっくりとスペクタクルにむせる
【新・三国志V 完結編 (松竹・博多座)】

作:横内謙介 演出:市川猿之助
10日(土) 16:30〜20:55 博多座 5250円


 この「新・三国志V 完結編」はおもしろい。
 作者の横内謙介が、「出来上がってみれば、あたかもパートVを創るためにTとUがあったかのような気がしてくる。」と言っているのがよく理解できるできばえで、楽しめた。

 主役は、魏の将軍・謳凌。架空の人物らしい。
 謳凌は、魏の総督・仲達の策略によって、追われるように倭の姫を送って倭の国に発つ。途中、蜀の都に立ち寄り、いまは蜀で孔明の後継者となっているかっての友・姜維と再会し、その妹・春琴と恋仲になる。春琴は、兄を補佐して孔明の理想を受け継ぐ学問所を運営していた。
 仲達は帝を殺し、魏の権力を掌握して蜀に攻め込んでくる。蜀は降伏するが仲達は殺戮をやめず、逃げていた春琴らは捕まり、助けに来た謳凌の奮闘にもかかわらず学問所の宝である貴重な書物は焼き払われてしまう。しかし、瀕死の謳凌の熱意に動かされた魏の総大将に命を助けられて、学問所の書生たちと春琴らは生き延びる。
 仲達は三国を統一して、晋の国を建国する。

 時間的にも空間的にも、その物理的なボリュームにまず圧倒される。
 時間的には、その場面転換のみごとさが、並行しながら進むいくつもの物語を、混乱することなくよどみなくわからせてくれる。特に3つのセリを実に効果的に使う。
 空間的には、例えば学問所のシーンで、舞台の背一面に天井まで積み上げられた書物の山。それだけでも感動ものだが、頻繁に転換される舞台のそれぞれがそんなボリュームなのだ。

 物理的なボリュームだけなら、それがいくらすごくてもそれほど夢中になることもないのだろうが、理想を持ちながらそれらが押しつぶされる敗者の美学と、やはり戦争に押しつぶされる一途な恋を、暗くなくそれほど深刻にならずに描いていて、しっとりとした感動がある。
 脚本は、見ているときはどちらかという大味ともとれるシンプルなセリフと聞こえ、情感に乏しいという感じもするのだが、かなり入りこんだところもあるストーリーがほぼ完全に理解できることからも、そのなかに必要な情報はみごとに詰め込まれていることがわかる。
 ただどうなんだろうか、繰り返されるテーマ「夢は必ずかなう」とか、やや甘ったるい恋愛話中心というのは、観客の幼児性を意識した作りかなという気がしないでもない。

 鏡の多用はスーパー歌舞伎の特徴だが、この舞台では極端なほど使われていた。
 背面と両サイドを鏡にして舞台を4倍にも広く見せる。透ける鏡を使い、鏡の奥の照明をコントロールして鏡奥の情景を照らし出し、鏡前の情景とオーバーラップさせる。また、天井から吊るされた16枚の鏡板を、回り舞台による転換にあわせてダイナミックに動かすという効果的な演出もあった。
 宙乗りのとき、客席に降る圧倒的なボリュームの花びらは、完結編の終幕だからこそとことんという感じで、酔った。カーテンコールで役者は花道を通って引っ込むのだが、人物のその後を表す演出もおもしろかった。サービス精神にあふれていた。

 今回のチケットは売り出し日にローソンで買ったが、3階右のバルコニー席だった。舞台を上から覗き込むようになるため、それぞれのフォーメーションがよくわかった。
 今回も営業の川原さんからパンフレットをいただいた。猿之助と藤山直美の対談が載っていて、楽しく参考になる。


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