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《2003.5月−8》

骨格の弱さを露呈
【化わりもの (GIGA)】

作・演出:下坂真澄
17日(土) 16:00〜17:00 福岡市立青年センター3階 500円


 この劇団GIGAの公演は、「青年センターくうきプロジェクト ワンコインシアター第一回公演」と銘打たれている。
 オリジナルに挑んだ意欲は認めるが、どこをとっても中途半端という印象しかなく、けっこうつらかった。骨組みの弱さが出てしまった。
 下坂真澄作品としては、前回の「いもむし」のように原作があるあるものを膨らませるのに比べ、はじめから創造するオリジナルのほうが圧倒的なパワーを必要とするが、この作品はまだまだパワーが不足している。

 自分のほかに3人の人格をかかえる女。家族からの虐待を受けて他の人格に頼ろうとするが、虐待を知ったストーカーの男が家族を殺してしまう。その男とセックスするが、家族を殺したことを知って、弱みにつけこんだ男を・・・(ううん、どうだったっけ?)

 なぜイライラとし眠くなるのか。観たばかりなのに、なぜストーリーを思い出せないのか。
 作劇上の欠点がそうさせている。骨組みが弱いということは、大きなドラマを孕まないということ。さらにデテールに小さなドラマも孕まないという展開なのだ。
 舞台の上に存在することはいかにも饒舌に見えながら、実は何も語っていない。状況は、舞台の転換で訳もなく変わる。舞台の上で突き動かされて変わるということはほとんどない。いろんなことは起こるが、それには根拠がなく、唐突にストーリーだけが展開していく。
 人物はだれも状況にかかわろうとはせず、変わった状況をわーわーと騒ぎ立て追認するだけ。人物のだれも欲求のままに動き、ためるということをしない。乗り越えるということをしない。ひょっとしてこの劇団そのものに「乗り越える」という概念がないのかも知れないとさえ思わせる、そういう舞台づくりだ。

 変わった状況をわーわー騒ぎ立てて追認するだけだから、この劇団の表現手法である情念の込めてしつこく引っぱろうにもやりようがない。何とも白けてしまう理由だ。情念を込めるには、状況設定すなわちドラマが要る。それがないから、俳優の動きが無意味にしか見えないのだ。

 この公演はきょう2回だけ。狭い会場にぎっしりの観客で、70人ぐらいだろうか。
 「青年センターくうきプロジェクト」は、毎月ワンコインシアターと音楽ライブを行っていくという。無料ボランティア中心の活動かもしれないが、行政がなかなか味なことやってくれる。内容には口出ししていないようなのもいい。  来月6月は、21日にに実施される。演劇は劇団ルースマンの公演。7月はコラーゲン配合マンの公演が予定されている。


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