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《2003.10月−2》

華々しい演目でホール能
【天神de能「土蜘」 (エムアンドエム)】

構成:博多「楽」
8日(水) 20:00〜22:00 イムズホール 招待


 天神de能 として、能舞台を使わないお能の公演での「土蜘」が、華々しいエンターテインメントでとても楽しめた。能にはスペクタクルもあるのがよくわかる。

 イムズホールの中央が舞台で、橋掛かりも松の背景もなし。舞台を囲む客席はさほど広くはない。舞台の四隅に灯火。
 それもあるが、能舞台とのいちばんの違いは屋根と柱がないこと。屋根がないため圧迫感がない。上からの照明もできる。柱がないから見やすい。ホールの高い天井があるだけで、開放感がある。

 居囃子「早舞(はやまい)」は、地謡の入らない素囃子で、笛、小鼓、大鼓、太鼓による演奏。
 演奏者は舞台の四隅に陣取り、上からの照明が照らす。テンポは、はじめ比較的緩やかで徐々に速くなるが、ハイテンポまではいかない。演奏は、力強くクリアーで生々しい。4つの音に掛け声がからんで、演奏者どうしの間が離れていることもあってステレオ効果抜群で、溢れるような音の豊かさに包まれる。ビートたけしが「昔のロックコンサートだ」と言ったのがよくわかる。上演時間約15分。

 連吟「小督(こごう)」は4人による連吟。
 高倉天皇の寵愛をうけていた小督局が、父清盛の怒りのため、嵯峨野に密かに身を隠している。帝は源仲国を嵯峨野にあるらしい小督の隠れ家に遣わし、仲国はとある片折戸の家から流れ出る琴の音を聴く。その曲が「想夫恋」。背後に大きな月。連吟は哀切に、みごとにハモる。上演時間約10分。

 15分の休憩のあと、鷹尾維教、飯田清一、白坂保行による「お調べ」や「デハ」についての解説があり、引き続き「土蜘」のツレ・胡蝶をモデルに装束着付の実演があった。着付けはふたりで行うのがふつうだというが、かつらまであるから大変だ。帯擦れや糸付けで衣裳が傷むのを、いかにも心配している。衣裳がいかに大事かがわかる。解説と実演で約45分。

 能「土蜘(つちぐも)」は妖怪退治の話。
 病で臥せる源頼光のもとに現われた法師が、蜘蛛の糸で頼光を取り殺そうとするが、頼光は法師に手傷を負わせる。頼光の侍臣は、その血のあとをたどって妖怪の棲みかに乗り込み、正体を現わした土蜘を退治する。
 妖怪が千条の糸(蜘蛛の巣)を投げて戦う華やかさがとても楽しめる。頼光の緋色の衣裳が照明に映えるなどの視覚的な効果も出ている。土蜘の鷹尾維教のダイナミックな横の動きがいい。侍臣の動きやアイのしゃべりに切れ味が少し乏しいとはいえ、全体的には幽玄とは程遠いダイナミックさ、派手さだ。ただ、歌舞伎の「土蜘蛛」に比べるとそれでも淡白で、歌舞伎のほうがもっとしつこく引き伸ばす。上演時間は45分強。

 終演後の交流会に参加させていただいた。
 この公演は、居囃子と連吟の演目を変えてあすも上演される。若干空席があった。


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