この公演の脚本は、全然練りこまれていない。
上演作品を決めるとき、上演に値する脚本かどうかの見極めもしないのだろうか。書き切れなかったり冗長だったりと、そのいびつさばかりが目立つ。
これでは演出や演技でカバーのしようがない。間延びした、質の悪い公演になってしまった。
病院が舞台のオムニバス公演だ。病院に目をつけたのはいいとしても、どの作品もドラマを見つけきれず、おもしろさが前面に出ることはない。睡魔に襲われっぱなしだった。
「今日の市川さんはトイレが長い」(作:いけうちしん〔空想童子〕 演出:増本恵美)
単身赴任の市川課長が入院し、病室で妻と若い愛人が鉢合わせする。妻は不倫を知らないふりしているが、実は何もかも知っていて、犬が呑み込んでウンチに混じって出てきた愛人のピアスをビーフシチューに混ぜて、そのビーフシチューを愛人に食べさせる。
愛人の、不倫を妻に知られたくないという独白や会話がわざとらしくて、現実味を殺してしまった。そこまでやらなくても、ちょっとしたことで感じさせるだけで十分だ。
妻は知っていたことを話したあと、ゲーゲー吐いている愛人の首を絞めにかかるラストはいい。登場しない市川課長も妻に殺されたのじゃないかとフッと思わせる。ピアスの使い方が効果的だった。上演時間は20分弱。
「As Time Goes By」(作:朝倉桂〔Gary〕 演出:増本恵美)
老医師の、戦時中の、患者との恋の思い出の話。折鶴を折る患者に医師は金と銀の折り紙を買ってきて、願い事を託して鶴を折る。女は医師の言葉を待つが、医師は従軍医師として入営してしまう。
演技はなかなかいいのだが、脚本が思わせぶりだけでまともな展開もなく、ものすごくテンポがのろい。内容がないから、引き伸ばされたりループしていると感じるのだ。思い入れがあるなら、それに見合った仕掛けがないともたない。上演時間約30分。
「休憩室」(作・演出:不破一夜〔ふわっとりんどばぁぐ〕)
深夜の娯楽室での女性患者とふたりの看護婦。女性患者が肝臓癌であることを、そのことをすでに知っていると勘違いした看護婦がしゃべってしまう。
この脚本も同じことの繰り返しが多く水増しされていて、とても十分に推敲したとは思えない。癌と知らされての女性の反応や、そのあとの心境の変化や、ほとんど意味のない詩など、展開は支離滅裂で、「なんでそうなるの?」といったレベル。女性の不安は少しは出ていたが、電話相手の恋人とのしゃべりなどでの人と人との関係の見つめ方もその表現も弱い。上演時間20分強。
「ヤンデルポイナ」(作:村山隆〔かべちょろ〕 演出:増本恵美)
女性患者と男性患者のいる病室に入ってきた若い男性患者。そのあとのストーリーは思い出せない。
にわとりが先か卵が先かの大議論でまず白けて、まったく根拠の乏しい展開に白けてしまう。根拠が乏しいからストーリーも思い出せないのだ。配役表にない箱男の「委員長」という役が終幕近く突然登場するが、それでどうなの? 思いつきを適当に並べて、勝手に自己満足してれば! 上演時間30分強。
ナンセンスにアプローチして、非日常や不条理をかいま見せようとしても、その発想力の弱さのために入り口でウロウロという印象だ。対象の中途半端な表現でお茶を濁していて、「意図はわかるでしょ、勝手に感じてよ」と甘ったれている。非日常や不条理を描くときほどリアルなきちんとした表現が要るはずだが、逃げてばかりだ。
今の、作る側のまったくの自己ペースをやめて、観客をどうやって引っぱっていくかについても考えたがいい。
この舞台はきのうときょうで4ステージ。私の観た最終ステージは半分以下の入りだろうか。空席が目立った。