奇をてらわず無理をせずきっちりと作られていて、そのリアリティで十分な説得力をもって迫ってきた。その舞台の醍醐味に、この劇団の大きな可能性を感じた。
滞在型自動車教習所の宿泊所。
教習生・コミヤは、起きた事実さえ次の瞬間には忘れ去るという前向性健忘症。その恋人・サイナに、男女ふたりづつの教習生。さらに管理人代理の若い女性と教官の男。
どうも少し前に、何か大変なことがあったらしい・・・。
始まったらいかにも作為を排したというような作りで、非常にテンポの遅い展開に見える。例えば、女性がひとりでマニキュアを塗るシーンにけっこう長い時間をかける。だからといって観ていていらだったり白けたりするわけではない。マニキュアはあとで重要な役をすることになるから、すべて計算ずくなのだ。
そんなこんなで開幕から1時間、互いの人間関係などの状況がくっきりと見えてくる。俳優の演技は必ずしもきっちりとしているわけではないにもかかわらず、けっこう錯綜する人物の思いが、その強さ弱さやねじれなどのニュアンスまで含めて立ちあらわれてくる。
その状況をベースにして、残りの30分で、隠されていたものが引っぱり出される。そのきっかけは互いに人の思いがわかったことによる反応で、それらが連鎖していき、高まり噴きだす。ただそれをことさらに劇的にはせず、相変わらず淡々としたなかで進めるというのはみごとだ。
ただ、ラストの泣くシーンでせっかくの張りつめた気持ちが一気にしぼんでしまう。泣くことが説明となってしまうからだが、このあたりの表現はなかなかむずかしい。
熊本の劇団によるこの舞台、福岡ではなくて北九州で公演するのは、北九州でのほうが受け入れられやすいと考えられたためだろう。たしかにそうかなという気はする。
この舞台はきょうとあすで2ステージ。若干空席があった。