仕込まれた趣向も演出の切れもテクニカルも俳優の演技も、みんな高いレベルで楽しめるのに、なんか流れてしまったようで力を感じないのだ。
趣向がせめぎあい重なり合う結果、相殺しあっているように見える。ただそれさえも、「ゴミ溜めのような芝居を作りたいと思った。」という作者のねらいどおりなのかもしれない。
ゲリラ放送のラジオの番組「Red Room Radio」。そこのDJ・ハルコとリスナーとハルコのまわりの人々の話。
開幕からこれでもかといわんばかりの趣向のオンパレードで、その表現もみごとに成功しているから、ほとんど目くるめくといった舞台にひきつけられる。
4段構成で階段が10もある舞台は、モノトーンで無機的でシック。「Red Room Radio」のスタジオの壁は、DJ・ハルコがしゃべっているときだけ真っ赤。
ノックアウトされたフライ級のボクサーが、意識が戻ったらヘビー級になっていたりと他の3組のリスナーを含めて、はじめからあるいは途中からどんどん”変わる”。それぞれが複雑で重すぎるほどの話が寓話的に語られる。ハルコとそのまわりの生活だけは現実的。近未来である外界の情報はところどころで登場するキャスターによって伝えられる。
そんなふうに、ありすぎるほどの工夫だ。
そのようなそれぞれにいっぱい詰め込んだ5、6もの物語が並行して進行すると、それらの趣向が平板的に投げ出された印象で、立体的に立ち上がらず、中盤ちょっとたいくつしてしまった。ものすごい情報量をうまく整理しているからわかりにくいことはないのに、趣向慣れしてしまったのかそれほどひきつけられない。演出も演技も時にリアル時に幻想的とホレボレするできだが、それにもすぐに慣れてしまう。
大きな骨格や爆発力をねらいとしない芝居なので、ややわがまますぎるかなという気もするが、そのあたりが気になった。
この舞台はきょうが初日で、福岡ではあすまで2ステージ。9月中旬に北九州で6ステージ。10月に小林市でも公演があり、東京公演は来年3月の予定だそうだ。かなり空席があった。