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《2004.10月−2》

「ウケる技術」の、オンパレード
【痛くなるまで目に入れろ (G2プロデュース)】

作・演出:G2
2日(土) 14:05〜16:20 西鉄ホール 招待


 基本的にはシリアスなのにエンターテインメントでもあるというこの舞台。なぜエンターテインメントなのだろうか。
 それは、観客にウケるために「ウケる技術」を多用しているからではないだろうか。

 息子と、息子をメチャクチャに溺愛する父親の話。
 高校生の息子にできた恋人が実は息子の腹違いの妹であると騙して、息子と恋人を別れさせる。そのショックで暴走族になりヤクザになってしまった息子。その息子にヤクザから足を洗わせるために父は大芝居を打つ。
 ヤクザに麻薬取引をもちかけてだまし、1億1千万円を手に入れた父と息子は身を隠す。ヤクザは父の屋敷に乗り込み居座り、5年間も父と息子を待つ。  話はその5年後の現在から始まり、5年前あるいはそれ以上前と現在との間を行ったりきたりする。

 冒頭は、現在。父の秘書がどこから話そうかと迷っていて、観客のひとりに問いかける。話は5年前、父と息子が失踪した日、ヤクザが父の屋敷に乱入するところから始まる。その乱入するヤクザのひとりが、さらに少し遡った次のシーンで息子の役になる―なぜ?という疑問が残る。
 いくつも出てくるそのような疑問も、時間が前後しながらも話が進んで霧がはれるように全体構成が鮮明になってくると、大部分は氷解していく。そのような作りだ。

 人物は奇矯なまでに個性的だが、そのような奇矯さを絡ませて人間関係を強烈にしている。
 ヤクザたち。その組長の妻は外人で、手下は、仲間を平気で殺す上昇志向の強い男、組長の娘にあこがれストーカーする男、そしてウスノロの男といった具合だ。平凡な個性だったら滑ってしまって絡まないだろうところだが、ここでは反応はバッチリでガッチリと絡む。
 父の詐欺癖や、息子の「部分的記憶障害」などという、人物の個性を伸長させるなどの仕掛けを使って話の奥行きを出している。このあたりは、戯曲構成上の「ウケる技術」なのだろう、そのような技術の体系化はまだなされていないようだが。

 そのような構成やキャラクタのおもしろさもさることながら、それらを強めるセリフに、会話をおもしろくする「ウケる技術」が多用されていることに気づく。
 例えば、組長が5年ぶりに帰ってくるだろう父と息子を待ってソワソワしている気持ちを大げさにしつこくわめき立てたあと一息おいて、冷静な口調で「取り乱しました」と言う。これは、「ウケる技術」の「自分ツッコミ」(いき過ぎた自分にツッコミを入れる)というかなり基本的な技術だ。
 「ウケる技術」という本(オーエス出版社刊のビジネス書)には、そのような会話をおもしろくする技術が38も紹介されている。この舞台で見ていくと、「ツッコミ」、「建前」、「カミングアウト」、「詭弁」、「勘違い」などという技術が数多く使われていることがわかる(それそれの技術の意味は上記の本を参照)。それが会話を多彩にし、エンターテインメント性を高めている。
 役者は、「ウケる技術」でサ〜ッと拡げたものを、次の瞬間にはス〜ッと引き取る自在さが要求されるが、そのあたりはみごとにこなしていた。

 この舞台は福岡ではきのうときょうとあすで3ステージ。若干空席があった。


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