福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ


《2005.5月−8》

神田紅の講談教室が、なかなかいい
【市民講談 高松凌雲の志 (市民講談実行委員会)】

構成:市民講談実行委員会
22日(日) 16:00〜17:40 小郡市文化会館 1000円


 高松凌雲は、現在の小郡市の生まれで、江戸時代から大正時代までを生き、同愛社という日本の赤十字活動の先駆けとなった活動を続けたという郷土の偉人。その一代記を、二日市出身で小郡市に本籍がある神田紅が講談化し、自ら語る。その「高松凌雲の志」はまあ楽しめた。また、その上演前にあった神田紅による講談教室がおもしろかった。

「講談教室」(講師:神田紅)
 ”自分が体験すると聴く耳ができる”ということで、よく聴くために実際に講談を語ってみようという約35分のミニ講座だが、これがおもしろかった。講談「鉢の木」から「いざ鎌倉」の冒頭の部分を講師をまねて観客全員が語る。
 講談の語りは、”メリハリ・ツッコミ・謡い調子”で表現する。メリハリのメリはマイナーで暗いところで、ハリはメジャーで音階が上がる明るいところ。ツッコミはそこだけ強く語る。謡い調子は、謡曲のように謡うところで、クライマックスなどで使われる。配られた脚本で、小●が付いているところがハリ+ツッコミ、波線が付いているところが謡い調子。「さて(●)も源左エ門その(●)日(●)のいでたち如何にと見てあれば(●)」と、一見わけわからないところにアクセントがあるように見えるが、それが講談独特の調子を作るアクセントだということがやってみてわかる。
 練習20分で、あと3人の小中学生による実演までやる。実際にひとりで語ると、講談はそう簡単ではないのがよくわかる。
 そのあと神田紅が「いざ鎌倉」の冒頭の部分の続きを語る。源左エ門が下野から鎌倉までを馬で駆けるスピード感など聴いていて魅力的だ。”メリハリ・ツッコミ・謡い調子”にさらに緩急をつけセリフに情感を込める神田紅の名調子に、講談の魅力がよくわかる。

「母里太兵衛 黒田節の由来」(長谷川敬二)
 黒田藩主長政の命で広島の藩主・福島正則に会いに行く母里太兵衛。広島に着いたとたん、酔っ払っている福島正則公から何でもほしいものをやるからとしつこく酒を勧められて、長政公の禁酒の命を破って3升の酒を飲み干す。褒章として太兵衛は、福島正則公が秀吉から受けた福島家の家宝の天下の名槍を所望する。太兵衛が槍を手に入れるまでのやりとりのおもしろさと、手に入れたら用事も忘れて黒田藩に戻るというのも楽しい。
 表現はやや硬いが、よくできた講談だということもあり、ずっと興味をひきつけられる。上演時間約20分。演者の長谷川敬二は神田紅福岡講談教室で講談を学んだ58歳の消防士さん。

「高松凌雲の志」(神田紅)
 高松凌雲は23歳で医学を志し、30歳で将軍家の奥詰医師となるが、明治維新で官軍に追われて榎本武楊らとともに函館まで逃げ、そこで敵味方なしの病院を作る。敗戦後明治政府の官職の誘いを断り、医院を開業した。友愛会を設立し、貧しい人を無料で診察した。
 前半は凌雲の事跡を追うのに必死といった趣で、おもしろみに欠ける。後半の、函館での敵味方平等な扱いをする病院を官軍から守るというところでやっと講談らしくなる。ただ、全体的には脚本が硬くて、語りもややギクシャクで流暢とは言えない。上演回数が少ないからやむを得ないところか。上演時間約40分。

 小郡に移って半年が過ぎたが、小郡市文化会館に入るのは今回がはじめて。600席ほどで客席が近いなかなかいいホールだ。
 この公演はきょう1ステージ。満席だった。


福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ