三島由紀夫の小説「禁色」を、伊藤キムがコンテンポラリーダンス化し、白井剛と踊るとなれば、かなりそそられる。さらにその過激さがモレ聞こえてくれば、これは北九州まで行かずばなるまい、と出かけた。
期待に違わなかった。大作で、やや間延びするところはあったが。
同性愛の、老作家と若く美しい男。そのふたりの性と生を描く。
原作は、老作家が若く美しい男を使って、生涯裏切られつづけた女性たちへの復讐をするという話らしい。
ダンスは、伊藤キムと白井剛のデュオで、老作家と若い男を通しての表現に絞り込まれている。それもここじゃ、伊藤キムが踊るのは老作家なんかじゃなくて、バリバリの若さいっぱいだし、原作で「ギリシア彫刻のような」と形容される若い男を踊る白井剛は、服を着たときのほうが女性的でセクシーで、その美しさにホレボレしてしまう。
そのふたりの近寄ったり離れたりというやりとりが延々と続く。全体的には軽やかに速く大きく動くダンスで、さわやかな印象だ。
始まってから5分間は、全裸(!)のふたりによる、ハードロックに乗った激しいダンス。とんでもないものがそこにあることにあっけにとられ、ユーモラスでさえあるその動きには圧倒されるが、人体はオブジェ化されていてエロい感じはない。女性だったらちょっと違うかもしれないが。互いの性器を指差しあい、自分の性器をもてあそぶところまである。天井から落とされた衣服を着終わると暗転。
あとは、着衣のふたりの内面を表すダンス。それはものすごく軽快で切れのいい動きで緩急があり、輪郭がクッキリとしていて、身体能力の高さがその姿態に顕われる。同じような踊りの繰り返しのとき時に、引き込まれたのかあるいは飽きたのか、夢の世界に落ちていくような気が遠くなるような感覚がある。
そのような表現のなかだからこそ、ふたりが互いに重なってずり上がっていく性愛シーンの濃密さが際立つ。
この舞台は、きょう1ステージ。ほぼ満席だった。