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《2005.8月−4》

甘ったるさを突き抜ける、勢い
【COMPOSER〜響き続ける旋律の調べ (TEAM-NACS)】

作・演出:森崎博之・TEAM-NACS
13日(土) 18:00〜20:25 ももちパレス 5250円


 音楽史に残る巨匠たちを中心に、好き勝手に想像の翼を広げてつなぎ合わせたという舞台だが、その翼の広げ方の大きさと、それをいかにもと見せるやり方にパワーがあり、くすぐりさえも勢いでもっていき、その勢いで満足させられてしまうという舞台だ。
 エンターテインメントとして、わかりやすく徹底的にお客を楽しませようという精神にあふれている。表現の新規性や芸術性はやや弱く、甘くて大味なところがあるのはしかたないというか、あるいはひょっとしてそこがねらいか。

 自分のたどりついた"絶望"を、ベートーベンに引き継がせようとして画策するモーツアルトの亡霊。ベートーベンの息子と友だちであるシューベルトに、サリエルがからむ。
 ベートーベンの父子関係をあらわにすることでベートーベンを"絶望"に導こうとするモーツアルトだが、ベートーベンのたどりついたのは"歓喜"。

 「ご勝手ご都合主義史実無視ファンタジー」と銘打たれている。この手の作りのものはけっこう多いのだが、この舞台の楽しさは傑出している。それはなぜなのだろうか。
 下手をすると空中分解してしまうという作りなのだが、この舞台は、親子の確執と情愛、互いの芸術へのライバル心からくる嫉妬や敬愛などを、大きく設定してうまく掘り下げている。ベートーベン父子の情愛を中心に、実の父子ではなかったことがわかって、それがどうのり越えられて、第九交響曲に集約されていく。そこにいくまで、「英雄」や「鱒」などの超有名な楽曲をうまくちりばめる。
 ご都合主義には違いないが、それでも30点以上の参考文献をもとにしており、史実を押さえた上での創作というのが、この舞台のスケールとリアルを支えている。

 表現は新しくはないが、これでもかとばかり多くのアイディアを繰りひろげる。いくつかの確執をうまくからませながら、息子の志向やシラーの詩などで伏線をうまくはって、観客にとってわかりやすいようにうまく工夫されている。
 くすぐりも多い。ベートーベンのモジャモジャ頭を、びっくりしたらストレートにしてしまうなど、言葉だけでなく実際にやってしまうのがバカバカしい。くすぐりに勢いがあると見えるのは、やったことにこだわらないでどんどん次の展開にいくためだろう。
 俳優の魅力は大きい。きっちりとした存在感だ。福岡では「水曜どうでしょう」が放送されていないので、テレビにおけるかれらの魅力はわからないが、これだけ舞台ができるのから、テレビもできるのだろう。
 この舞台のテクニカルは、ド派手な演劇調。なつかしいくらいだ。そう、全体としても、ド派手な演劇に少し砂糖をまぶしたような印象だ。ただしこの劇団がすごいのは、SF調から人情ものまでこなす幅広さだ。

 チケットゲットに苦労したのに、開演時間を間違えていて20分遅刻。それでも内容はよくわかったし、十分に楽しめた。
 札幌の劇団の全国ツアーで、福岡ではきょうとあす3ステージ。超満員だった。


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