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《2005.8月−5》

これは、喜劇だ
【LILAC (HoleBrothers)】

作・演出:幸田真洋
14日(日) 18:30〜20:30 ぽんプラザホール 招待券


 HoleBrothersと幸田真洋の特質が突きつめられていて、うまく発揮された舞台だ。ズブズブと泥田に足を突っ込むような感触は、この劇団独自のものだ。人の心の暗黒面をかいま見せる舞台で、そのおぞましさをを描いているが、そのとっかかりのなさに、なんかニヤニヤしてしまう、。
 不満なところはもちろんあるが、この執着と集中で、構成面を一工夫して質が高まりスケールアップしていけば、大きく飛躍する予感がある。そんな舞台だった。

 不倫相手を過失から殺してしまった女・白美(キヨミ)。恋人・黄(カツミ)とともに白美の故郷に逃げる。そのとき山中に、不倫相手・深緑の死体を捨てる。
 父母が亡くなって実家には姉・紫(ユカリ)とその恋人・赤司。実家のライラック園はマンション計画でつぶされ、そのマンション計画はを施工するのは白美の高校時代の友人・藍。彼女は住宅会社の翠(アキラ)と不倫している。その翠の妻・碧美(タマミ)は陶磁器店をしており、商店街のイベントの出し物に芝居をすることに。その作・演出が赤司。
 いっぽう、死んだはずの深緑は息を吹き返し、白美に会うために追いかけてきて、それを藍がかくまう。

 最初からみごとにずっこけた設定になっている。そしてそのようなずっこけの連続なのだ。それを暗く重苦しくやる、そのギャップがなんともおもしろい。まぁ、藍にかかわる話はほんと暗くて救われないのだが、それも問題をすりかえてかわしてしまうというのもまたおもしろい。
 清楚の象徴ライラック園だが、最初から清楚などどこにも存在しない。黄は碧美とさっさと不倫するし、二またかけていない人物のほうが少ない。それを否定的には描かないことで、人物の虚像を剥ぎ取っていく。そして、藍の高校時代の事件を通して、村の権力構造と硬直した人間関係が姿を現す。
 藍は、白美を陥れようと深緑を翠に殺させるが、自分の部屋から死体がでたことで却って窮地に陥る。だが赤司は、誰も傷つかずにことを済ますために白美と深緑との心中にみせかけるべきだと、白美に毒を渡す。
 それで白美はどうするか? なんと、罪を引き受けるという、エゴのかたまりだったはずなのに。はじめからそうしていれば、深緑は死んでいなかったのだからとんだ茶番だが、何の問題もなく、このドラマもなかった。そこまで遡って、藍のヒロイックな復讐心も含め、みごとにリセットしてしまうのだが。そのあたりを知らん顔してまじめに表現しているのがおもしろい。これ、ほんと、喜劇なのだ。

 役の名前に作為がありすぎるように、やや作為が目につく欠点はある。
 途中出し惜しみしていて、終盤に集中しすぎという構成は少し工夫したがいい。劇中劇と現実がなかなかうまく重ならず、劇中劇の効果が薄い。これも工夫の余地がある。
 構成をよくし、切れをよくすれば、喜劇性がもっと際立つだろう。

 この舞台は、3月に地震で中止になった公演のリベンジ公演で、きのうときょうで3ステージ。少し空席があった。


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