同じように見えても感じさせてくれるものはまったく違う。名人芸というものは、たぶんそのようなものだろう。
ほんとに野村萬の動きのよさにびっくりした公演だったが、全体的にも充実した演者・演目で、楽しませてくれた。
○解説 7分
野村万蔵によるあいさつと簡単な解説。
○狂言「蚊相撲」 約30分
1人しかいない召使をもう1人増やそうと、大名が募ったところ、やってきたのは人の大きさもある蚊の精。その実力を試すために、大名と相撲をとることに。
野村萬はいくつなんだろう、そのメリハリの効いた動きにまずビックリする。語りはやや鷹揚に聴こえるが、じっくりと響いてくる。まったく奇をてらわない。
ほんとに圧倒的な存在感で、大きな世界を感じさせてくれる、大きな芸だ。
○素囃子「男舞」 約5分
大鼓、小鼓、笛による囃子。
つい大鼓(白坂信行)の手先に目が行ってしまう。さりげなく打ちながらこもった力を感じさせる、能の囃子の魅力がわかる。
○狂言「名取川」 約30分
ほとんどが野村万緑の一人芝居。
4人の地謡と3人の囃子方を従えて、相手役はラスト近くに出てくる名取の何某だけ。地元の万緑を大きく育てようとする挑戦的な配役か。
無難なできだが、全体的にもう少し緩急がほしいし、動きには切れがほしい。
○狂言「首引」 30分強
今回は3曲ともぶっ飛んだ演目で楽しませてくれるが、なかでもこれは特に楽しい。
捕まえた人間を娘鬼に、人の初物食いをさせようとする親鬼だが、その人間をそうやすやすとは食べられない。というのは、捕まったその人は鎮西八郎為朝。
鬼の娘は為朝と、腕押しやスネ押しをしても勝てず、首引でもかなわず、4匹の鬼が娘鬼に加勢してもダメというのがばかばかしくて楽しくて、大いに楽しめた。
娘鬼が福岡の宮永優子で、動きはいい。
隣の席が、早良美術館の東館長だった。少し話せた。