もともと見せ場の多い「黒塚」だが、狩野了一のシテの動きの切れのよさ、躍動する舞台を楽しんだ。
大川木工まつりの一環として開催されている「匠の薪能」。
狩野了一がシテを務めること、久々の薪能であること、そして入場料が安いので行くことを決めた。
ところが、本来なら風浪宮境内で上演されるのが、雨で大川市文化センター大ホールでの上演に。
○居囃子「風浪」 8分
大川喜謡会の20人による謡。囃子方は能「黒塚」と同じ。
○狂言「鬼瓦」 16分
ものすごくポピュラーな狂言だが、ストーリーは、因幡堂の鬼瓦を見て国もとの妻を思い出す、という単純な小品。
それを、山本泰次郎と則孝の兄弟が、ていねいだが剛毅な、いかにも大蔵流という芸で見せる。見応えがあった。
○仕舞「法下僧」 5分
熊本市在住の喜多流能楽師・狩野丹秀による。謡は大川喜謡会の4人。よさがよくわからない。
○能「黒塚」 1時間5分
山伏一行が泊まった奥州安達原の一軒家。その家主が鬼女であることを知り逃げ出すが、鬼女があとを追ってくる。
前シテの老女と後シテの鬼女の対比で見せる能だが、面と衣装の効果をさらに引き出すような狩野了一の動きが、強く印象に残った。ムダな動きがなく、動きは大きくて的確で、観ていてグイと引き込まれる。
アイ(合力)の山本則孝とワキの坂苗融のやりとりが狂言になっている。そのアイは、好奇心を押さえられずに閨の内を覗くという重要な役を担う。老女の閨についてのそぶりからして、アイの思いももっともではあるが。
開演前、「演者の足が見えないと意味がない」と言って、前の方の客席を走り回っているオバサンがいる。ホールでは、能舞台のような傾斜はついてないので、オバサンの苦労もわかる。
狂言のとき、通路にカメラマンがふたりも。シャッター音以外にピーピーという電子音をさせている。通路向かいの席の人が、音は消せないのかと文句を言っている。消せないようだ。
わたしもカメラマンのひとりに「そんな音をさせるのなら席を変わらなきゃならない」と言ったら、やめると言って去っていった。ところがすぐにもうひとりのカメラマンが現れた。ここで撮影するという。すぐに最前列の空き席に移った。
大事なお能の最中も、ピーピー音は相変わらず響いていた。音の出る電子機器を、主催者が率先して使ったんじゃどうしようもないだろ。
行政が絡むとお偉いさんの席が確保されることが多いが、ここでも最前列と2列目の中央に15席を名前つきで確保、うち6席は欠席で空席。ほんとに田舎者だな。
大きな会場に移動したので、ガラガラだった。