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《2010.10月−6》

騒乱の世代へのレクイエム
【新宿八犬伝 第五巻 (第三エロチカ)】

作・演出:川村毅
16日(土) 14:05〜16:50 西鉄ホール 2500円


 ほんとになつかしい、80年代の川村毅の再来である。新宿八犬伝第一巻を観た30代の日々にもどったなつかしさ、それを端々から感じる。
 確かにそうだ、これはまさに、なつかしい80年代演劇そのもので、70年代を生きた騒乱の世代への、川村毅によるレクイエムなのだ。

 新宿の騒乱を生きた男の妹が産んだ、8人の、人と犬のあいのこ。25年経って、その8人が新宿の歌舞伎町に続く別空間・犬の町に呼び寄せられる。

 いかにも80年代演劇というド派手な舞台。
 幾重にも重なってダイナミックに展開するスケールの大きな骨太な構成だが、顕れているところはたっぷりの情念。
 ギリギリまで大げさに、絶叫し飛び廻り、ぶつかり合い絡み合い、25年前から呼び寄せられた騒乱の情念が、舞台いっぱいに立ち籠もる。

 ・・・筈なんだけど、前半はド派手な舞台に幻惑されて、八犬士の存在が立ち上がってくるまでが長いのが、やや残念。
 だが、後半のパワフルにたたみかける展開には、グイグイと引き込まれていく。閉じ込められていたものが激しく噴出していく。

 若干の大味は厭わず、スケールとパワーを目指した舞台だから、個々のシーンの切れや先進的な表現には乏しいのはやむを得ない。
 まったく新しい地平を切り開いてきた「東京トラウマ」や「ハムレットクローン」からみれば、系統が違い、古臭く見えるのはやむを得ない。
 だが、25年にわたって同じ手法を維持しての統一的な大河演劇としてのまとまりが、いまこの時期に80年代演劇の豊かさの片鱗を見せる。

 この舞台は、騒乱の世代に遅れてきた川村毅の、全共闘世代へのレクイエムともいえる舞台だ。
 人と犬のあいのこである八犬士は、まさに騒乱の落とし子。それが25年を経て集まる。犬の町では、激しい騒乱の世界を犬たちは獲得する。
 しかし、犬の町を出て乗っ取った歌舞伎町では、あっという間に軍隊に制圧されてしまう。いまや、騒乱の時代は忘れ去られてしまっていたのだ。
 しかし、それを描くことで、川村毅は80年代から現代を撃つ。

 俳優の演技については、ダイナミックな展開を支えようという努力が、俳優の力を引き出して、端的な人物像を作り上げてはいた。
 ただ、人物の陰影の深さ、その人物が寄って立つ世界の深さまではなかなか至らずに、全体としてはまだまだ軽い。
 福岡オーディションの俳優たちはよくやってはいたが、若干の甘さが残る。そのことが全体の質に影響がないとは言い切れない。

 この舞台は、福岡ではきのうときょうで2ステージ。東京公演の半分の入場料で観られるのはありがたい。わずかに空席があった。


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