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《2011.5月−11》

そんなにツボ押さえまくらないでくれぇ!
【わが星 (ままごと)】

作・演出:柴幸男
16日(月) 13:05〜14:30 北九州芸術劇場小劇場 3,000円


 大きなテーマを抜群のアイディアで密度が高く練り上げて、それを軽やかに翔ばせて見せた。“そんなにツボ押さえまくらないでくれぇ!”という感じだった。
 このところ観た若手演劇人の舞台では、ずば抜けている。ほんとに出色の舞台だ。

 地球の寿命100億年と、女の子・ちーちゃんの一生を重ねる。

 骨格となるものから細部にいたるまで、詰め込んだアイディアの密度が非常に高い舞台で、速射砲のごとくに繰り出されてくる趣向に殴られっぱなしになる。
 それなのに印象は軽くさわやかという、どうしようもなく魅力的な舞台だった。

 舞台は、初めは真っ暗で、137億年前のビッグバンから始まる。
 47億年前の地球誕生から、50億年後の地球滅亡までを、女の子・ちーちゃんの誕生から死と重ね合わせながら描く。

 いちばん低いところにある舞台には、白い大きな円。
 8人の俳優たちは、その周りをラップをしながらリズミカルに走って廻る。家族のシーンは、その円のなかで演じられる。
 その家族を1万光年先から望遠鏡で覗いている先生と生徒。先生は、光速を超えるスピードで、時間と空間を統合してタイムマシーンとなって、1万年前のちーちゃんの家へ家庭訪問の教師として現れる。
 しかし、1万光年離れたところからこの家族を見るという視点は残る。

 そのようにして舞台は、宇宙的な時間と空間の広がりを獲得する。その広がりをちーちゃんの家族が反映する。
 ちーちゃん10歳11歳の家族をややていねいに描き、ツキちゃんと友だちになって歳を取っていくところをサッとたどる。ちーちゃんの死=50億年後の地球の滅亡が訪れる。
 地球を象徴するちーちゃんの日常を描くことで、宇宙空間と時間のなかでの地球が存在のそのかけがえのなさが伝わってくる。この舞台のポジティブな印象は、宇宙とそこにあるものへの信頼からきている。

 ラップに合わせた速い動きが出演者全員でシンクロし、さらに照明・音響もみごとにシンクロする。
 観ている視点は、2百数十億光年幅でダイナミックに、前後左右に、巨大から細部に、過去未来に自在に移動する。練り上げられ研ぎ澄まされた言葉と動きのなせる業だ。

 ここまで書いてきても、この舞台のズシンとくる感動はほとんど書ききれていないことに気づく。
 眠っていた心の一部がショックで目を覚ましたような感動は一体どこから来るのか。この作品が持つ思想的な奥深さの故のような気がするが、それを言葉にすることは今はできそうにもない。

 この舞台は北九州では、19日から23日まで5ステージ。ほぼ満席だった。


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