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《2011.5月−12》

わかりやすい舞台で、後半たいくつ
【 桜の園 (地点)】

作:A.チェーホフ 演出:三浦基
21日(土) 19:35〜20:55 イムズホール 共通チケット10,500円


 原作戯曲をうまく再構成していて、そのおもしろさを引っぱり出していた。
 演出の趣向がかなりはっきりと見えて、わかりやすい舞台だった。わかりやす過ぎて却って後半退屈した。

 「桜の園」の主人・ラネーフスカヤ夫人がパリから帰ってきたが、農園の経営は逼迫し「桜の園」は借金の抵当に入っている。
 この家の農奴出身の商人・ロパーヒンは夫人に、整地して別荘地として貸し出すことを提言するが、夫人は相手にせず、「桜の園」は競売にかけられる。

 この舞台ではロパーヒンを大きく扱い、提言を受け付けないラネーフスカヤ夫人とのすれ違いをクローズアップする。
 舞台中央に積まれた窓枠の上の狭い空間に、ラネーフスカヤ夫人とその兄と娘と養女が、全員白い服装でひしめいている。
 広い舞台には1円玉が敷き詰められていて、積まれた窓枠はさながらお金の海に浮かぶ小島だ。
 舞台の三方は屋敷を表す木組で囲まれ、その上方にスクリーンの帯があり、ロシアをイメージした映像が流される。
 木組の上には、上手に茶色の服のロパーヒン、下手奥にほころびだらけの濃いグレーの服を来た万年学生・トロフィーモフ。人物はこれだけ。

 ラネーフスカヤ夫人たち4人は、窓枠の島から降りることはなく、窓枠を通してしか外を見ない。敷き詰められた1円玉の上を歩くのはロパーヒンだけだ。
 それぞれの人物は、セリフの情感を排した棒読みをただ強調したようなしゃべり。そのしゃべりを、剃刀でスパッと切ってずらしたような効果などをつけて強調することで、人物の心情は却って際立つ。
 そんな風に、露骨なほどにわかりやすい仕掛けを詰め込んだ演出だ。だが、そんな仕掛けにはすぐ慣れてくる。

 上演台本作りと演出の仕掛け作りについての、アフタートークでの演出者の話で、この舞台がなぜわかりやすいかがよく理解できた。演出者は次のように言う。
 ○いろんな見方ができるチェーホフの戯曲の、つかみ所を見つければそれが突破口になる。この舞台の場合はそれが「窓」。物から順応して、その直感を捨てないで粘り強く芝居を組み立て転がしていく。
 ○名作戯曲の一幕ダイジェストへの変換にあたっては、場面の入れ替え、セリフの順番の入れ替えを行う。

 戯曲の核をうまく取り出してくる手法としては、そのやり方は効果的で効率的だろう。
 でもそれはあくまでも、原作戯曲のピックアップに過ぎず、原作戯曲の解体の度合いは低く、再構成のインパクトもそれほど強くはない。後半たいくつな原因はたぶんここにある。

 この舞台は福岡演劇フェスティバル参加作品で、福岡ではきょうとあすで2ステージ。ほぼ満席だった。


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