芝居を観る楽しさを、たっぷりと味わせてくれた舞台だった。
この劇団、新作で「よい」と「それなり」を交互に繰り返してきて、今回は「よい」の番なのでさらに期待したが、期待以上の舞台だった。
福岡の若手劇団でここまでの舞台を創る劇団が現れてきたことに拍手したい。
海外リゾートの日本人経営のペンション。そこで、高校野球部OBの仲間の8年ぶりの同窓会だが、どうやらなつかしいばかりという単純な同窓会ではなさそうな・・・。
まず、脚本がいい。
いくつかの話が並行しながらテンポよく展開し、それらがじわりと絡んでいくという構成は、やや強引な展開ながらもそのうまい語り口に引き込まれていく。
ファーストシーンでわざとらしいさが気になったが、それは計算されていてちゃんと伏線になっている。
恋愛、結婚、ホスト狂い、スポ根、カルト、パニック、野球賭博、薬物、アクションなどなどを多彩に盛り込みながら、じわじわと人物の本性が顕われてダークサイドに向かうという、ミステリー仕立ての展開で見せる。
小さな「あれ?」はいくつかあるが、それを「ま、いいか」と思わせる勢いがあった。
演出はていねいで、テクニカルの質も高い。
エンターテイメントらしいメリハリを大胆につけていて、装置、照明、音響とも併せて観る者の心をくすぐるような工夫がたくさんあって楽しめた。
俳優は、それぞれの持ち味をうまく発揮していた。
多田香織が魅力的だ。清楚に見えるが心に影のあるかなり幅広いキャラの役を、過不足なく演じ切っていた。かって「半神」で見せた渾身の演技から6年。このところ不満な演技が多かったが、この舞台では幅を広げた演技で成長ぶりを見せつけた。
阿部周平のみごとにはまった演技も、印象に残った。
客席の雰囲気が実にいい。
開演前、期待に溢れた観客の熱気が客席を満たしていた。上演中も、観客の集中度がわかる。カーテンコールでの拍手も実に暖かい。
東京公演などの経験を積んで、劇団員が自信をつけた。それがいい雰囲気となって顕われていて、それが観客を引きつけている。そのようなところにも、劇団としての総合力が大きく増しているのを感じた。
この舞台は、きょうとあすで3ステージ。満席だった。