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《2012.3月−2》

旬の演劇人の勢いが見えた
【ゲキトーク 多田×柴×中屋敷 (FPAP)】

作・演出:−
10日(土) 16:00〜18:00 ぽんプラザホール 500円


 いま旬の非常に生きのいい3人の鼎談なので期待して出かけたが、ほぼ期待どおりでおもしろかった。
 司会は高崎大志氏で、事前に寄せられた質問が中心で、参加者との質疑応答はなかった。

 次のような話が印象に残った。

 ○中屋敷氏の、中堅どころの女優の出番がないなどの文化の女性蔑視、日本の演劇の新作主義と国際競争力、芸能と演劇との乖離、という問題提起があり、それがおもしろかった。

 ○観客動員について、多田氏、柴氏は観客数を気にしないといい、中屋敷氏は公演も動員も多いのに評価が低いという。

 ○社会的評価と演劇を続けることについて、多田氏は演劇パワーがチャージされた奇跡の瞬間の幸せがあるから続けられるが、変な続け方はしたくないので、すごい失敗をしたらやめるという。柴氏は、岸田戯曲賞を取ったときは幸せではなかった、お客様から言われたことが楽しくて、続け方がいろいろあると知って楽になった、という。

 ○東京と地方での演劇活動について、中屋敷氏は、楽しい演劇を観るために上京したのに、求めていた演劇がなかったので頭にきて、自分の演劇を作るようになった。だから東京に絶望している、という。柴氏は、かっての東京で作った作品の持ち回りから、いまはアーチストが東京から地方に出張して作品を作るようになったが、それもくやしい。町が町だけで自活できる人材を持つようになるべき、という。中屋敷氏は、東京は発信のみで受信力(違う最先端を引きつける力)がなく、レッテル貼りばかりだ、という。 さらに3人で、上演していないと岸田戯曲賞候補にならないこと、人気者になりたい演劇人の少なさ、演劇という言葉が広すぎるのでジャンル分けが要る、というようなことが話された。

 ○どういう役者がすごいと思うか、という問いに対して、すごい演技は稽古場のほうがある、とか、同じセリフでもこの俳優がしゃべったらおもしろいというのはある、とか、立っているだけでおもしろい俳優がいい、というような話が出たが、立っているだけでおもしろい俳優とはどういう技術を持った俳優で、それはどうすれば育成できるのかという、肝腎の議論には至らなかったのが残念だった。

 ○劇団だからやれているというところについて、共通認識を持ち、文脈を共有でき、時間をかけて方法論を探求できるなどのメリットが語られたが、ユニットのほうが気が楽という話も出た。

 ○一般市民対象のワークショップへの思いについて、多田氏は、演劇をやったことのない人のワークショップがいちばんおもしろい、といい、柴氏は、市民の人と作った作品では強めるスキルがないので、自分の(劇団で)作品を作るのがいちばん好き、だという。俳優対象のワークショップについては、中屋敷氏の肯定論と柴氏の否定論に分かれた。

 以上のような内容だった。

 3人の方の個性と活動を受けた発言で、その個性の差もわかっておもしろかった。
 福岡の演劇界にとっては、このところこのような生きのいい人たちとの交流が深まってきているのは喜ばしい。ほんとに、全国的に注目されている演劇人には勢いがありセンスがある。
 ただ、この人たちと福岡の演劇人との間はまだ、一方的な送り手・受け手の関係でしかない。彼らに対峙できるような演劇人が早く福岡に現れてほしい。

 このイベントはきょう1ステージ。ほぼ満席だった。


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