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《2012.3月−5》

激しい生き様を淡々と描く
【西の桜 (HIT!STAGE)】

作:森馨由 演出:田原佐知子
18日(日) 14:00〜16:00 西鉄ホール 1,500円


 いかにも現代口語演劇という一見淡々とした描写で、女の激しい生き様をみごとに引っ張り出していて、見応えのある舞台だった。

 父の死を機に、婚約者を連れて佐世保に戻ってきた征二。
 征二の兄・征一は単身赴任中で、その妻・ひとみが母と同居している。征二は、いまは空き家となっている亡くなった祖母の家に住もうとする。

 前半は、状況説明に時間を費やしてややトロく感じるが、眠くなるギリギリのタイミングで事実が開示されていくので、何とか退屈は免れる。
 征二のまったく優柔不断でだらしない性格をはじめ、それぞれの人物の個性がじわじわとわかってくる。それらの人物が持つ思いが人と人との関係に影響を与えることになるが、そのあたりの絡ませ方はなかなかいい。
 確かに人は「・・・すべき」で行動することもあるが、人間関係で行動を決めることが多い。どういう性格で相手のことをどう思っているからどういう行動になるか―というのが緻密に計算されている。性格と人間関係から行動が規定されるとともに、行動から性格と人間関係もわかるという相互作用を捉えることで、後半さらに展開するドラマのベースを作っている。

 後半は、征一についての秘密が、さらには全体の核ともなるなっている祖母についての重大な秘密が、明らかになっていく。
 顕れてくる事実は衝撃的だが、それらの伏線はすでにあり唐突という感じはしない。リアルな会話劇のなかでそれを描いているところはみごとだ。
 そして時間を遡り、若いころの祖母が登場する。清いばかりではない祖母のしたたかな生き方を、この舞台は否定も肯定もしない。祖母の強烈な生き様がいまの家族に大きな影響を与えていることが露わになってくる。
 脚本は、出自を確認することでいまを生きる人の腹も決まってくるところまでを描ききったが、全体を通しては少し冗長かなという印象を持った。それは、演出の間の取り方と演技の朴訥さの影響もあるのかもしれない。リアルなセリフが象徴化し多層化してさらに練り上げられれば、いいリズムが出てくるのではないか。

 俳優たちの、リアルなセリフをリアルに表現しようとする努力は伝わってきた。
 ただやはり、リアルな表現はむずかしい。役を的確に表現するためには、よけいなものを削ぎ落とした高い身体性が要る。そこがこの舞台では十全ではなく、俳優の演技の力には若干のばらつきがあって、ややぎこちないところもみられた。そのあたりがさらに改善されて、戯曲の持つリズムが的確に見えてくるほどに表現が高まれば、舞台の質はさらに向上するだろう。

 この舞台は福岡では1ステージ。少し空席があった。


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