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《2012.3月−7》

容赦なくて、それでも楽しくて
【ある女 (ハイバイ)】

作・演出:岩井秀人
25日(日) 14:05〜15:35 西鉄ホール 3,000円


 まじめにやったらポツドール、という素材を、みごとに解体・再構成していた。
 映像も使った多彩な表現で、現実の内側の世界へ連れて行かれて内側から幻想的に現実を眺めているという趣がある。途中感じるけだるさも含めて、岩井秀人に徹底的に操られたが、それが快感だ―という舞台だった。

 28歳のタカコの、学生時代の男、前の会社の男、今の男、そしてセックス教室の男との話。
 大学時代の男に振られ、入社した会社の男にも振られ、そのために会社を辞めて入社しなおした今の会社で上司の男とつきあっている。その男を喜ばそうとセックス教室に行くことに。

 日常生活の中ではごく普通に、いろんな悔恨や忸怩たる思いを抱え込んでいることが多い。普通は抑えたり紛らしたりして表面に出ることが少ないそんな思いだが、タカコのように捉われ出して影響が出だすと、それは繋がり増幅していく。ましてやタカコにとっては最大の関心事である男の話だ。

 そうは言っても、タカコ個人にとってはかなり深刻な話なのに、外から見ているだけではその心情はなかなか伝わってこない。岩井秀人は、腑分けでもするようにタカコの現実とその意識の中に分け入って、その現実と意識を内側からあぶり出し、大きくデフォルメすることによって、タカコの現実とその意識をぶちまける。
 その表現は、現実を揺さぶって二重写しにするという印象を作り出すことで、タカコの意識を反映させる。その揺さぶりの最たるものが、岩井秀人がタカコを演じること。感情移入を拒む気色の悪いタカコだが、だからこそ想像力が刺激されてタカコの像は膨らむ。

 そんなふうに、エスカレートしていくタカコの現実が表現されるが、そこには教訓的な臭いはない。
 ただ、自分の中にもタカコと同じような性向があることを感じさせられ、自分のまわりの現実が炙り出され映し出されて、追い詰められていくタカコと同じような生の不安を突きつけられて、ゾッとする。

 この舞台は福岡では1ステージ。少し空席があった。


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