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《2012.6月−2》

ワークインプログレス公演のパワーはない
【prayer/s (RAWWORKS)】

作・演出:永山智行
6月2日(土) 12:05 〜 13:50 あじびホール 2,500円


 ワークインプログレスのほうが本ちゃんよりおもしろいことは往々にしてある。
 この本ちゃんの舞台はそれなりにはおもしろかったが、ワークインプログレス公演のパワーのほうが勝っていた。

 受胎から始まる女の生を、男との関係に絞って描く。

 あじびホールの半分以上を占める舞台。奥に白い幕があって、俳優はその裏から登場する。
 舞台の上には離れて、白いイスと落葉とガラクタが置かれていて、ガラクタのいちばん目立つところに掛け時計が文字盤が見えるように置かれている。下だけを照らすメガホン状のライトが5個、低く吊るされている。
 前説の女性がそのままイントロの語りに入る。キャスト表にはない。その語りはけっこう長くて数分にわたり、毎日を平凡に繰り返すだけの人生の無意味さが、しつこいほどに語られる。その語りが実は重い意味を持っていたことは観終わってから分るが、それにしてはその語りはあまりにも無造作すぎて、作品の質を下げている。

 キャスト表の人物は4人で、メインの女と男、それに2人の女。2人の女は、語りや歌などのパフォーマンスで舞台の進行を助ける。メインの女と男には、セリフがほとんどない。
 舞台は終始顔もよく見えないくらい薄暗く、ときにスポットライトが当たる。そんななかで、俳優が揺らしたライトの動きが効果的だったりと、永山演出らしい細やかさは至るところに見える。
 セックスに始まってセックスに終わるところはいかにも永山作品。受胎、誕生、子ども時代、結婚、男との離反と回復と、シンプルに見せるがそれぞれの内容は重い。その重さを内に溜め込んで、ほとんど様式的とも見えるレベルにまで高めて、ちゃんとした存在感を出すことができるか。そこに俳優の力量が問われる。

 進行を助ける2人の女のパフォーマンスは、語られるエピソードも魅力的でセリフも美しく、演出上もよく工夫されている。舞台での位置づけでも、メインの女と男との比重などのバランスも考慮されている。
 メインの女と男の演技では特に、キーとなるセックスのシーンが冴えない。落葉の上に客席に背を向けズボンを下ろした男。女はモゾモゾとその腰にしがみつく。しばらくして女は男のズボンを上げる。それは、セックスしたことを説明はしていても、表現にはなっていない。男のマスターベーションのシーンとほとんど印象が変わらないという薄さだ。
 肝腎のセックスのシーンが際立たないから愛が表現できず、2人の歳月を象徴的に見せる歩調を揃えたゆっくりした歩みも引き立たない。冗長で緊張感に欠けたものになってしまっていた。舞台は最後にイントロの語りを否定することになるのだが、そこも説明でしかなく、表現にはなっていないから印象が薄い。

 静謐に見せかけながら大きなエネルギーを秘めた永山戯曲では、そのエネルギーを読み取り取り込んで、静謐な演技に込めて噴出させなければならない。ワークインプログレスの舞台は、わけのわからないパワーに満ちていて魅力的だった。この舞台では戯曲のパワーは十分には引き出されず、舞台を単調なものにしてしまっていた。

 この舞台は福岡ではきのうときょうで3ステージ。ほぼ満席だった。


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