岡田利規の短編小説をテキストにしたこの一人芝居は、内容がおもしろく佐々木幸子の演技も絶妙で、とても楽しめた。
役を降ろされた女優から逆恨みされて殺されてしまった女優コヤマ。彼女を殺したのはキレイさだけが売りの若い女優Mだった。
女優コヤマによって語られる女優の生活状況と演劇論・女優論がおもしろくて楽しい。
それらがポンポンと小気味よく連発されて積み重なっていって、それでドラマを作っていく。Mという女優から殺されることになった経緯とコヤマの女優論がみごとに結びついて、女優論そのものがドラマになっている。語られることには論理的なことがらもあって軽くはないが、それを軽〜く聴かせてしまうセリフ術はみごとだ。
後半の20分が死後の世界の話。そこで、自殺した知り合いの画学生ワカヤマとめぐり会う。ワカヤマのいた大学でコヤマはデッサンモデルをしていたのだ。そのワカヤマとアート論議をしたコヤマは、ワカヤマを散々やりこめる。そのアート論議もとてもおもしろい。
死後の世界では生前の仕事を継続するかどうかが選択できる―なんてのでコヤマが悩むのもおもしろい。
佐々木幸子は、コヤマ、M、ワカヤマと、3人を演じ分けながら進める。
ほぼ裸舞台で、小道具は厚めのティッシュの箱と上手奥のCDラジカセ。天井からミラーボールが下がっていて、それが時に回る。音響は、CDラジカセを出演者自身が操作する。
佐々木は真っ赤なワンピースで髪には大きな赤い花。細めのメガネでやや理知的な雰囲気。薀蓄を語るメインのコヤマ役にはピッタリだ。
岡田利規の小説「女優の魂」をテキストとしているので、しゃべりがほとんどで動きは多くない。若干ある動きは、しゃべりとは無関係に動くチェルフィッチュ風で、そこはさりげなくやられる。
ほんとに、計算されつくした精度の高い舞台で、これは確かに岡田利規の世界だ。
とにかく、さりげなくテンポよく語られる演劇やアートについてのセリフがものすごくおもしろくて、一言も聞き漏らすまいと必死に集中して耳をこらした。
コンテンツだけでここまで見せられるんだ、芝居はコンテンツだな、と感じたが、もちろんそれは、そう感じさせる演出が施され、キチンとした演技がされているからこそなのだ。
この舞台は第2回ひた演劇祭参加作品で、きょうとあすで2ステージ。50席ほどの会場はかなり空席があった。もったいない。