横内謙介の手馴れた作劇術に身を任せて、六角精児の絶妙な演技を楽しんだ。
久しぶりに観た善人会議の舞台は、正統的な小劇場の雰囲気が感じられて懐かしかった。
悪役専門の役者たち5人が、良い役をやってみたいと自主公演を立ち上げる。そこへ偶然やって来たのが元やくざ物Vシネマプロデューサーの白鳥忠に取り入られて、白鳥にプロデュースやってもらおうと準備金500万円を全部渡してしまう。白鳥はそれを一晩で博打ですってしまう。
この舞台は、古典に大胆なアレンジを加える人情噺シリーズの第3弾で、歌舞伎「敵討天下茶屋聚」の端敵(脇の敵役)役の安達元右衛門をフィーチャーした舞台。
白鳥を演じる六角精児のどうしようもない小悪党ぶりがやたら楽しい。
人のいい悪役たちが無事に自主公演までこぎつけられるかというのかという興味を、白鳥がことごとくぶち壊して状況を悪くしていく。そのあたりの展開はうまい。
500万円を何とかしようと画策してさらに傷口を広げる白鳥の、弱気なのか騙しなのかはっきりしないチャランポランな物言いがなんともおもしろい。のらりくらりの性分なのにちょっとした悪事の策略はそれなりにやるのもいかにも小悪党らしい。
再会した元恋人を使ってスキャンダルを起して客演のスターから3000万円をせしめようとするが頓挫。その元恋人のパトロンの金を盗っていっしょに逃げようとするが、ばれて元恋人は殺され、白鳥も追っかけてきたヤクザに殺されて死ぬ。
白鳥と元恋人は幽霊になっても、公演の成功を妨害しようとサンプラーやマイクを故障させるというところまで話が行ってしまう。
そんなふうで、行くところまで行きエピソードも多いところを、速いテンポで小気味よく展開していく。
結局は、困難を乗り越えて公演は成功するのだが、そのいちばんの困難である客演のスターのスキャンダルは毅然とした対応をとることで乗り越え、資金はスターのプロダクションが出すことで乗り越える。このあたりの描き方はエンターテインメントらしい甘さがあって弱いイニシエーションだが、展開に納得はできる。
ヤクザを兄に持つプロダクションの女性顧問弁護士(中原三千代)の強烈な個性がインパクトがあっていいが、KKT社長令嬢の研究生(趣里)の出番をムリヤリ増やそうとよけいなエピソードを付け加えているのは違和感がある。
後半エピソードがゴチャゴチャしたせいか、白鳥と元恋人の死がサラリとしすぎる感じはしたが、それに続く幽霊のシーンはどこか歌舞伎調でなかなか楽しかった。公演も成功してハッピーエンドと、いかにもエンターテインメントという終わり方で幕。
それにしても、同じ小悪党でも主君殺し弟殺しをし仇の家来になる安達元右衛門に比べて、白鳥忠のかわいいこと。おもしろいけど凄みはない。
現代の話にしたのはいいとしても、善意の人ばかりが出る演劇の裏話にしてしまったのが甘ったるくなった原因だ。演劇の世界から離れて普通の世界を舞台にすれば、白鳥忠に凄みが加わったのではないか。
この舞台は黒崎ではきのうときょうで3ステージ。黒崎ひびしんホールは黒崎に新しくできたホールで、中ホールは約300席と最適の観劇環境。この舞台は黒崎ひびしんホールの演劇としてのこけら落とし公演なのだが、空席が目立った。