初めて観た金魚の舞台は、密度の高い見応えのあるダンスパフォーマンスだった。
本編上演後に行われたワークショップの発表会を通して、鈴木ユキオの考える身体性と方法論を実感できた。
鈴木ユキオのソロ「EVANESCERE」と、4人のダンサーによる「密かな儀式の目撃者」の2本立て。
ことし2月に東京のシアタートラムで上演された舞台だが、そこでは女性ダンサー4人によって踊られた「密かな儀式の目撃者」が、女性3人と鈴木ユキオで踊る「えだみつ演劇フェスティバルバージョン」になっていた。
○EVANESCERE
暗い舞台の一部が照らされてそこに鈴木ユキオの身体が浮かび上がってくると、その存在感から一瞬たりとも目が離せない。凝縮されたものが身体から立ち昇って空間を揺らし、空間からはその身体が遠隔操作をされているような、緊張に満ちた濃密な舞台だ。
30分弱の舞台は大きく3つに分かれる。まず、舞台奥上からの狭い照明で逆光からシルエットで見せる。バランスの取れた肢体から繰り出される非常にキレのいいダンスは、どこか爬虫類や昆虫の動きを感じさせる。それでいながらどこかどっしりとした存在感を感じさせるのは、身体の芯をしっかりと安定させる舞踏の技法があるからだろう。
次に床に置かれた3つの透明な電球による照明で踊り、透明な電球のコードを長く持って振り回す。そして次に、その電球を慈しむように体に包み込んで撫でまわす。電球と体がうまく絡んだどこかホッとする感じと、大きな影の動きのややグロテスクな感じがうまく混在している。
○密かな儀式の目撃者
まず女性ダンサーと男性ダンサーのペアから始まり、かなり時間をおいてのダンサーの入れ替わりが幾度かあって、ペアやトリオの組み合わせが変転していく。もともとは女性ダンサー4人のダンスだが、1人の女性ダンサーが鈴木ユキオに変わったことでかなり違った印象になったのだろう。振付も一部変わっているのかもしれない。
「EVANESCERE」もそうだったが音は最小限に抑えられていて、ペアのシーンなどで無音のところも多い。照明も明るくはない。ペアでもトリオでも身体が触れあうことはほとんどないが、ダンサーは見えない紐で繋がっているような感じだ。床の上を転がるような動きが多い身体のありようは自在で安定していて、緊張感が薄くなることはない質の高い舞台だった。上演時間40分強。
以上が本公演だが、そのあと鈴木ユキオ+金魚によるワークショップの発表が20分ほどあった。
ペアとなって相手の命令で身体の一部を意識して動くという動作を、馬の背のような不安定さの中にいると想像してやる。次にはそれをひとりでやる。
それを見ていると確かに、鈴木ユキオの言う「見えないものもダンスの可能性がある」というのがなんとなくわかる。これが、「常温」で「蒸発」する「揮発性」の身体の考え方だという。うまく説明できないが、トコトン身体性にこだわったダンスはものすごく潔い、ということは実感できた。
この舞台は「えだみつ演劇フェスティバル」参加作品で、きのうからあすまで3ステージ。観客は15人ほどで贅沢な観劇だが、ほんとにもったいない。