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《2013.10月−7》

家族劇団、3人だけでここまでやるか
【はだかの王様 (野外劇団楽市楽座)】

作・演出:長山現
10日(木)19:00〜20:50 佐嘉神社 神苑駐車場 特設舞台 投げ銭


 野外劇団楽市楽座の2013年新作の「はだかの王様」は、アンデルセンの原作を3人で上演しながら魅力ある音楽劇に仕立てていて、楽しめた。

 おしゃれ好きなタコの王様のところに、ウミホタルと黄色いおたまじゃくしが極上の衣装を作りにやってくる。

 野外劇団楽市楽座は、座長・長山現、副座長・佐野キリコの夫妻とその娘・萌(中学1年生)の3人だけの家族劇団。プールに浮かぶ舞台を持つ特設劇場一式を車に積んで全国巡演を始めてことしで4年目。「はだかの王様」は全国巡演作品としては4作目にあたる。

 この舞台では3人で5つの役を演じる。
 オープニング、3人の衣装の鮮やかさが際立つ。タコの王様(長山現)は真っ赤な振袖、ウミホタル(佐野キリコ)は白基調のドレス、おたまじゃくし(萌)は黄色いワンピースの上に茶色の短い上着を羽織る。タコの王様が何で振袖なのか、展開の中でちゃんと話される。
 俗っぽさを象徴する総理大臣(萌)と東大教授(佐野キリコ)は、顔を描いた麦藁帽子を深くかぶって人形劇の感じで演じ、舞台の雰囲気がガラリと変わる効果を上げていた。

 劇中でオリジナル曲が10曲ほど歌われる。伴奏は生演奏で、長山現がギターや三味線を、萌がバイオリンを演奏する。それらの歌は親しみやすくて楽しい。
 効果音は鉦などを使って実に細やかにていねいになされ、舞台になじんで下支えする。
 ほんとに、スタッフ・キャスト総勢3人でやっているとは思えないほどで、蓄積された3人でやるスキルが舞台の質を向上させている。

 ちょっと気になったのが、説明しすぎること。
 すでに表現しているものを言葉で説明してしまうのは屋上屋を重ねるだけで、ガス抜きされて却って感興を削がれる。テーマの説明や直截な主張などのセリフは、もっとカットしたがいい。劇中で「アンデルセンの『はだかの王様』」についてしゃべることも作品の品格を落とす。
 ただ、ラストに王様が鬼に変身してしまうような、いろいろ考え込ませるような象徴的なシーンもあって、原作ものとはいえ戯曲の質が高いのは確かだ。

 ことしは福岡で観られなくて佐賀まで行ったが、観劇環境が静かでよかったので集中できた。
 この公演、佐賀では2日間の上演で、きょう2日目は延べでは50人をはるかに超えるような観客で、「大入り」が出たようだ。


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