「肉体の四季 第一朶・地の景」で上演されたの作品の中では、縫部憲治「エミール」が一瞬たりとも目を離せない魅力的な舞踏で、惹きつけられた。
舞踏青龍會が始める2013−2014アトリエ連続公演「肉体の四季〜名付け得ぬものへ〜」 は、きょうのから2014年10月の「第五朶・空の景」までの5回シリーズの公演だ。
主宰の原田伸雄は小郡市に移ってきてから、自宅に併設する舞踏青龍會アトリエで試演会などを開いてきたが、いよいよ本格的な公演活動を開始する。その第一弾だ。
舞踏青龍會アトリエは、原田の自宅の別棟の2階に作られている。舞台と客席は5m強×4m強ほどのフローリングの空間で、客席数は20席〜25席。キャパは大きくないが、自前のアトリエを持つことで稽古とリハーサルに思い切り時間を取ることができるようになるメリットは大きいのだろう。
きょうの「第一朶・地の景」では、井上みちる「極小世界劇場」、松岡智恵・シンキミコ・高杉直子「アノヒトへ」、縫部憲治「エミール」の3つの作品が上演された。
○井上みちる「極小世界劇場」
薄暗い照明の中、簡素なヴェールをかぶった白いワンピースのダンサーが床に伏せっていて、尺八の音に合わせて徐々に立ち上がる。尺八奏者が姿を現し、ダンサーのそばでずっと演奏。ダンサーはゆっくりとした動きだが、身体は小刻みに痙攣し寄り目でトランス状態のような雰囲気が持続される。途中から少し激しい動きになり、やがて再び床に伏せる。
出入り口のと扉が開けられると外光が射し込む。お尻を大きく上げたような姿勢で床を叩いたりしながらゆっくりと立ち上がって様々な姿態を取りながら光に向かい、尺八奏者に続いて光の中に消えていく。
井上みちるは1975年生まれで、昨年ニューヨークに渡ったが、今は帰国して九州在住のようだ。尺八はニューヨーク在住の川口賢哉。上演時間約30分。
○松岡智恵・シンキミコ・高杉直子「アノヒトへ」
黒い簡素なワンピースの3人のダンサーが淡い照明の中に浮かび上がる。3人は、1人が立ち、1人が座り、1人が中腰と、その姿勢を保って個々に動きながら、3人の統一感は崩さない。音楽はかかっているが、少しはなれたところで原田伸雄が床に座り、シンバルや鈴やタンバリンを床に打ちつけて演奏する。シンバルの大きな響きに原田の激しい掛け声がかかると、3人のダンサーはそれに呼応するように存在感を増していく。突然ハイテンポのピアノ曲に変わると、3人のダンサーは今にも飛び立たんばかりに手を天に伸ばす。
3人のダンサーはそれぞれに個性的で、年齢やダンス経験も異なるが、うまく一体感を出していた。上演時間約20分。
○縫部憲治「エミール」
ゆったりとした動きが多いのに、その動きが実に心地よくて浸ってしまう。ほんとにその魅力がどこからきているのか、何がどう違うのか。
暗いなかから縫部憲治の筋肉質のやや細い身体とスキンヘッドで精悍な顔つきが浮かび上がる。床の上に身を起こして大きく手を振りながら比較的ゆったりと身を動かす。衣装は前開きの薄黄緑の女性用ワンピースで、白いレースの飾りがついた黒のパンティをはいている。開脚して上半身を大きく廻すような動作には、鍛え上げられた身体能力の高さが感じられ、動きは実になめらかで一分の隙もない。やや中性的な感じで徐々に激しく全身で展開するダンスは、形も動きもユーモラスだが、磨き上げたような動きのなめらかさは変わらない。
いちどカーテンの奥に引っ込み白い長パンツに上半身ハダカで登場すると、こんどは立った姿勢での比較的男性的なダンスで、光の中で輝く肉体は彫刻のようだ。その動きは空間を動かすような印象さえある。ほんとに舞踏の醍醐味を、その表現を通して別世界を垣間見せてくれるようなレベルで感じることができた。
縫部は東京在住の舞踏歴30数年の大ベテランで、55歳の会社社長だという。その身体と精神のなかに確かに舞踏は息づいている。上演時間約30分。
終演後その場で、出演者やスタッフと観客で小宴。食べ物などはタップリで、20人もの参加だから、もはや小宴ではないが。そこでいろんな方と話せるのも楽しい。
この公演はきょう1ステージ。満席だった。