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《2013.10月−10》

もちょっと観たかった
【鉄卜全−大分編 (鉄割アルバトロスケット)】

作:戌井昭人 演出:牛嶋みさを
14日(月・祝)15:00〜16:15 AT HALL(大分) 2,000円


 期待していた劇団の公演は、バカバカしくはっちゃけていて楽しませてくれた。キャストと演目に本公演並みのボリュームがあればさらに満足したのだろうが、旅公演なのでそこはしかたないか。

 戌井昭人主宰の「鉄割アルバトロスケット」の九州初上陸となれば、これは見逃したくないと大分まで行った。
 今回の「鉄卜全−大分編」は、「大分舞台芸術フェスティバル2013」参加公演。会場のAT HALLは飲食店ビルの3階にあり、桟敷30席弱+イス10席弱という空間で、居酒屋と間違えて一度は通り過ぎてしまった。
 舞台上には大きくない5枚の幕と2つの暖簾がかかり、幕には「宮永会館」などの刺繍が取れかかっている。色つきの小さな電球がたくさん天井に下がっている。舞台には「物やら何やら飛んでくるかもしれません!ご注意ください!!」と注意書きがある。
 チラシとともに受け取ったものに、「ビンゴ」の用紙と新聞紙で作った袋があり、その袋には2枚入りのおにぎりせんべいの小袋と飴が1個入っている。

 公演で上演される演目は、2,000以上ある演目の中から選んで構成されている。この公演では「ヤクメタル」から「ごくつぶし」まで23演目が並んでいる。出演が、戌井昭人、奥村勲、中島朋人、中島教知、村上陽一と男ばかりなのと、演目ごとに衣装や道具が要るから旅公演であることを考えて演目が選定されていると思われる。  23の演目は、「ヤクメタル」「新しい学校」「ふるさと」「わたしのすきなもの」「わき毛バイオリン」「アマリリス」「野球やろうぜ」「身体裁判所」「ワイルドサイド歩き」「ビンゴゲーム」「殺らんかこら」「赤い星黒い星」「なかなか日本旅行」「フックさん」「園まなぶ」「馬鹿舞伎」「ちくわの先生」「宇宙人家庭教師」「天佑霊草大師麻黄」「梵ちゃん曼荼羅」「おせんさん」「ごくつぶし」と、題名もふるっているが、内容もバカバカしくてふるっていいる。

 出演者5人が舞台上をグルグル廻るオープニングからすぐに「ヤクメタル」と「新しい学校」は演られているはずだが、あっけに取られていたこともあってどこがこれらの演目か認識できなかった。「ふるさと」「わたしのすきなもの」は出演者の自己紹介のようなもの。「わき毛バイオリン」から演目らしい演目が展開する。
 上演時間1時間15分で23演目だから、1演目平均は3分強の上演時間だが、個別に見れば数十秒から数分と短いものと比較的長いものとが混在する。演目ごとの出演者も1人から5人と多様で、短い時間暗転するだけでどんどん続いていくから、舞台裏はてんやわんやだろう。

 メチャクチャにやっているように見えながら、「アマリリス」はオペラの、「馬鹿舞伎」は歌舞伎の、「園まなぶ」は歌謡ショーのパロディになっていて、けっこうじっくりと見せる。あと比較的長いものでは、「宇宙人家庭教師」「殺らんかこら」はドタバタ要素が強く、「天佑霊草大師麻黄」「梵ちゃん曼荼羅」はあんまり軽くなくてちょっとばかりゾッとさせる宗教パロディになっている。「ワイルドサイド歩き」では戌井昭人の卓袱台タップが楽しい。
 短いものでは、何ごともなく終る「わき毛バイオリン」、上半身ハダカの胸と腹を裁判所に見立てた「身体裁判所」、観客の思惑をみごとに外す「ビンゴゲーム」、観客のひとりにせんべいを食わせるだけの「おせんさん」などは、落とすんではなくて、人を喰ったような絶妙のタイミングの暗転で逃げる。
 ラストの「ごくつぶし」は、ギターに合わせての、シャブ中毒ややくざや殺人鬼や野良犬による歌合戦で、バカバカしくにぎやかに終る。

 観ているときははじけ方が足りないように感じていたが、観終ってしばらく経っても印象がけっこう強烈に残っている。演目名を見ただけでニヤニヤしてしまうということは、あとを引くまでに周到に計算されているということか。
 演目ごとの独立性が高く、常にリセットして跳べるように構成されている。ぼろっちぃ衣装をだらしなく着込んだりと、メチャクチャな人間がハチャメチャに演じていることを意図的に演じるというメタシアター的二重性は、一見照れ隠しのようにも見えるが、実は十分に考え尽くして選択された表現方法で、それがこの劇団を魅力的にしている。
 そんなふうに楽しめはしたが、旅公演だからか本公演に比べてキャストが少なく演目数も少なくて上演時間が短く、ボリューム的には不満が残った。女性キャストが入ればさらに多彩な舞台になっただろう。

 「鉄割アルバトロスケット」はいま注目の劇団で確かに魅力的ではあるが、小劇場勃興期にどこかで観たような既視感を拭いきれない。
 この舞台は大分ではきのうときょうで3ステージ。ほぼ満席だった。


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