福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ  前ページへ 次ページへ


《2013.10月−13》

3人の女性のやりとり、おもしろい
【Case4 〜他人と自分〜 (HIT!STAGE)】

作:森馨由 演出:田原佐知子
19日(土)17:00〜18:00 紺屋ギャラリー プレゼント・チケット


 これまでに観たこの劇団の舞台はじっくりとリアルに描く一晩物が多く、それがこの劇団の持ち味だと思っていたので、象徴的な手法で書かれたこの中編の作品は新鮮で楽しめた。

 思い描いていた人生と現実の人生とのギャップを埋めるために自分の影武者を作り上げようとする30代の女性。影武者のアルバイト募集に応募してきた2人の女性を採用して、3人はこれまでの人生の分岐点へ遡っていく。

 紺屋ギャラリーの中央に、木で作られた枠だけの、1辺1m、高さ2mの三角柱がある。それにはキャスターがついていて移動可能になっている。そのまわりに、イス代わりの3つのボックスがあって、中にはレゴのようなブロックとタオルのような布が入っている。そのまわりを客席の丸イスが囲む。
 開幕前から3人の女優は舞台に出ている。開演とともに緩やかな動きのパフォーマンスが5分ほどあって、本編に入っていく。影武者を求めた女性ミホは元会社員、影武者のひとりスズは元工場勤務、もうひとりの影武者モミジは元介護職員(だったかな?)。ミホの影武者への要望は「わたしという人間になってほしい」ということ。3人は互いに「わたしってどんな女?」と問いかけ、3人は一昼夜近くいっしょにいて、それぞれが職を失い男を失ったことなど、互いを知るにしたがって互いが重ねあわされていく。
 そこから3人は、ミホの人生の岐路となった過去の分岐点へと遡る。その遡りは三角柱の中に3人が入ってグルグル廻すことで表現される。

 最初はミホ32歳、男との話だ、それも結婚詐欺。次がミホ30歳、また男との話だ。
 時間が遡ったり現在に巻戻ったりしているあいだ、それぞれの経験は3人に共有され、互いに確認される。それをかき乱すかのように時々ミホの母から電話がかかる。だが3人はさらに共有化が進み、ラストの3人による千手観音ではほとんど一体化している。
 そんな舞台の状況設定と飛び交う本音のセリフは、よく書けていておもしろくて、ニヤニヤしっぱなしだった。
 そんあ森馨由の切れのいいセリフを女優たちはていねいにキチンと演じていた。三角柱を使うことで効果を上げている演出だが、それぞれのセリフの内側まで入りこんでさらにメリハリをつけていれば、印象はさらに鮮烈なものとなっただろう。

 この舞台は福岡ではきょうとあすで3ステージ。観客はとても少なくて、もったいない。


福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ  前ページへ 次ページへ