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《2013.10月−14》

イベントとしてはおもしろいけれど
【えだみつ演劇フェスティバル2013 鐵づくりをモチーフにした上演 (北九州お手軽劇場アイアンシアター運営実行委員会)】

企画・演出:市原幹也
20日(日)10:10〜13:15 枝光八幡宮境内 無料


 「えだみつ演劇フェスティバル2013」の地域協同プログラム「枝光八幡宮に『鐵神様』を奉納する上演」は、朝10時から始まって「鐵づくりをモチーフにした上演」「鐵に願をかける子ども演劇の上演ほか」「舞いを奉納するコンテンポラリーダンスの上演」「音楽を奉納する現代音楽の演奏」「祝詞の上演」が午後5時ごろまで続き、午後7時からは【枝光八幡宮秋季大祭】「筑前御殿神楽」奉納があって、全部終るのは午後9時過ぎというかなり長時間のイベントだ。
 そのなかで、最初の「鐵づくりをモチーフにした上演」を観た。枝光八幡宮境内で実際に鉄を作ってみるというイベントで、演劇と言えなくもないし、驚きもあって楽しくはあるが、招聘した演劇人による纏まった演劇作品が観られると思い込んでいたので、勝手に肩すかしを食った格好だ。

 八幡製鉄所に隣接し遊郭や劇場などもあって栄えた枝光にあって、製鉄所用地となった地域にあった神社も統合した枝光八幡宮は、とても立派な神社だ。ここで毎年奉納される神(かみ)神楽「筑前御殿神楽」は、北九州市内の神主さんたちによる神楽だ。
 地域協同プログラム「枝光八幡宮に『鐵神様』を奉納する上演」は、舞台は忠魂碑前の土俵とその周辺で行われ、その土俵の前に3張ほどのテントが立てられ、数十脚のイスが並べられている。別途、食べ物などを販売するためのテントもある。
 午前10時過ぎから、主催者あいさつのあと、フェスティバル成功祈願の神事が土俵上の祭壇で15分ほど。主催者のあいさつでは、枝光八幡宮に多くの人が参詣してほしいという願いから、その仕組み作りのためにこのイベントの企画と実施をのこされ劇場≡にお願いしたという。原案を地域のみなさんに出していただき、岸井大輔、大谷能生、手塚夏子というアーチストを招聘して地元の方たちと作り上げた作品などが「鐵づくりをモチーフにした上演」のあとに上演されたが、時間の都合で観なかった。

 午前10時半過ぎから、いのちのたび博物館の松井学芸員などが準備された器具と材料で鉄作り開始した。まず、古代のまいぎり式の火おこし器での火おこしだが、煙は出てもうまく着火しなくて失敗。ライターで着火することに。
 準備されている製鉄用の炉は、木炭用の七輪の上にもう一個逆さにして七輪を重ねて、ドライヤーで下部から風を送るというもので、それが2セットと精錬用に小さなコンロが1セット準備されている。材料のリモナイト(褐鉄鉱)は粉末状に砕かれている。燃料としてかなりの量の木炭が要る。そんな製鉄の器具の思った以上の簡便さに、邪馬台国の時代から日本で鉄が作られていたんだという松井学芸員の説にも納得させられるほどだ。
 火が着けられ木炭が燃え出して炉の温度が上がってくると、勢いよく炎が噴出す上部の穴から、5分ごとに50グラムのリモナイトをハンドショベルで炉に入れ込むが、これがけっこうむずかしい。炉の内部は1000度以上だから注意が必要だ。そんな作業が参加者交替で1時間以上続く。
 午後1時前に火を止めて炉を冷ましてから鉄の取り出し。うまく鉄ができていた。

 最初多かった観客もだんだん減って、残ったのはほとんどが関係者でわたしのような一般観客はほんとに少ない。そんな少ない一般観客の中に関東からの演劇ライターなどが混じるのは、地域と協同するこの試みに注目してのことだろう。
 これも演劇といえないことはないだろうが、「枝光本町商店街」に比べて演劇性はさらに希薄になっている。きょう一日のイベント全体を観てから言え、ということかもしれないが、「鐵づくりをモチーフにした上演」だけを観る限りイベントとしてはおもしろいが演劇的感興は薄い。
 えだみつアイアンシアターが芸術監督制をやめたことで今年から大きく様変わりした「えだみつ演劇フェスティバル」の今後を示唆するようなきょうのイベントだ。ことしの「えだみつ演劇フェスティバル」は昨年までのようにはそそられないのはえだみつアイアンシアターでの公演がないためだが、なぜえだみつアイアンシアターを使わないのか理解に苦しむ。ついでに言えば、のこされ劇場≡には、本格的なストレートプレイもちゃんと作ってくれ、と言いたい。


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