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《2013.10月−15》

美しいものを見た
【Shakespeare THE SONNETS (新国立劇場)】

構成・演出:中村恩恵・首藤康之 振付:中村恩恵
20日(火)14:05〜15:10 北九州芸術劇場 中劇場 4,000円


 中村恩恵と首藤康之の研ぎ澄まされたモノトーンのダンスが、闇の中から鮮烈に浮かび上がってめくるめく展開する。その様を息もつかずに見つめ続ける至福の時間だった。

 「ソネット」とは14行からなるヨーロッパの定型詩で、シェイクスピア風ソネットでは1つの定型詩の詩形は3つの四行連と1つの二行連から成り立っていて、韻を踏む。このダンスの元になったシェイクスピアの「ソネット集」は、154篇の定型詩から構成され、同性愛を含むすさまじい三角?四角?五角?関係を扱った生々しい物語のようだ。
 この「ソネット集」の物語に、シェイクスピアの戯曲からの登場人物が絡み、2人はそれらの何人もの人物を踊る。
 舞台には、下手手前に詩人のデスクがあり、中央奥にある大きな化粧台の上手隣には黒い服を着けたトルソが置いてある。
 舞台は3場からなり、それぞれの場のはじめには詩人(首藤)が登場して場を象徴する短いセリフをしゃべるが、声が発せられるのはそこだけだ。

 一場は、詩人の2人の恋人、美少年とダークレディの話に、「ロミオとジュリエット」を絡ませる。
 ともに黒の衣装の詩人(首藤)と美少年(中村)の熱烈な恋の場面はいつか、白い衣装のロミオ(首藤)とジュリエット(中村)に変わって、ダイナミックなバレエで表現される。そのあと、美少年(首藤)に嫉妬したダークレディ(中村)が美少年を誘惑するところは衣装は黒に戻る。
 二場は、ダークレディの誘惑に乗ってしまった美少年と詩人との葛藤が、「オセロ」や「真夏の夜の夢」や「ヴェニスの商人」の一部を使って強調される。
 詩人(首藤)の美少年(中村)への懐疑は、ハンカチを介して、オセロ(首藤)とデズデモーナ(中村)に移ってその愛する人を殺すまでの激しい嫉妬が表出される。さらにその状況を、寵愛するとりかえ子を妖精王と争う王女タイターニア(中村)に重ねる。
 三場は、詩人(首藤)が美少年に変わり、もう1人の美少年(中村)とともに美少年が鏡に映ったように2人になって、黒服の2人はシンクロしたダンス。そのあと2人は黒服を脱ぎ捨てて白いく短い衣装の男と女になってダイナミックなダンス。前半はユーモラスで後半は激しい。

 全体的に抑制された印象で振幅の小さい舞台だと観ているときには感じたが、こうやって思い起こして振り返ってみると、それぞれのシーンごとに印象は大きく異なることからして、非常に多彩な表現を駆使しているのがわかる。上記の各場の説明はほんの概略で、繊細にたくさんの情報が詰め込まれている。
 終演後、舞踊評論家の稲田奈緒美さんの司会によるアフタートークが40分ほどあり、おふたりの話を聞くことができた。デュオだけど3人目が重要で、「ソネット集」に出てくる「真・善・美」を見えない3人目と支えあって挑戦することで、答えが見つかってきた、ということだった。また、新国立劇場でブラックボックス(舞台と客席が同一平面)で作ったこの作品を、プロセニウム(額縁型舞台)の北九州芸術劇場で上演することは冒険だったが、うまくいったということだった。
 この舞台は北九州ではきょう1ステージ。少し空席があった。


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