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《2013.10月−16》

スコット・エリオットの演出の力を感じた
【TRUE WEST 〜本物の西部〜 (梅田芸術劇場)】

作:サム・シェパード 演出:スコット・エリオット
22日(火) 19:05〜21:05 キャナルシティ劇場 6,000円


 それぞれのシーンはリアルなんだけど、全体は不可解な幻想にしか感じられない。それは元々サム・シェパードの戯曲のねらい目で、捉えどころなさからくるストレスさえも魅力にしてしまうスコット・エリオットの演出の力を感じた。

 1970年代、南カリフォルニア郊外の家。母のアラスカ旅行中、映画脚本家である弟・オースティン(音尾琢真)が留守番しながら脚本の企画を書いているところに、放浪生活を送っている兄・リー(内野聖陽)が帰ってくる。

 この戯曲は1980年に発表され、アメリカではこれまで多くの名優たちにより演じられてきた。日本では2004年に松岡昌宏と大野智の主演、アリ・エデルソンの演出で上演されている。
 今回の上演も演出者はアメリカから招聘している。スコット・エリオットは「アベニューQ」を作ったThe New Groupの創立者で芸術監督。舞台演出家として活躍しており、映画監督作品もある。
 そのスコット・エリオットの演出を見るためにこの舞台を観たが、日本人の演出家なら甘く逃げてしまうだろうところまでをキッチリと描いていて、戯曲の魅力を引き出していた。

 舞台は2幕で10場ほどの構成。それぞれの場は簡潔で的確なセリフでリアルに描かれていて際立っているのに、全体から立ち表れてくるものはなんとも複雑で曖昧なものだ。
 第1幕での、虚勢を張る粗暴な兄をもてあましながらも軽くあしらう余裕の弟という関係が、映画のプロデューサーが兄の話に興味を示し弟の企画より優先させて映画会社に売込むことにしたので、第2幕では形勢が完全に逆転する。
 映画プロデューサーは何となく胡散臭そうな感じのゲイで、兄の話を売込むのは兄と関係をもったためではないかという匂いがするが、認められた兄は後半は意気揚々だ。華々しく見える弟の成功が実際はかなりきわどいもので、企画を軽んじられたことでストレスが噴出して、後半は人格まで豹変してしまう。そのような人物のいらだちにシンクロするようにストレスが伝染してくるのがサム・シェパードの戯曲の魅力だということだろうか。

 全体から感じる曖昧さは、確実なものは何もないという空洞感、行き場のない浮遊感を呼び起こす。スコット・エリオットはそれを表現するのに、世田谷パブリックシアターの舞台では家そのものが浮遊していると見えるような演出をやったようだ。
 1970年代は、兄が望んだような西部劇にも通じるような古いアメリカンドリームの時代は何十年も前に終わっている。弟が一瞬つかんだかのように錯覚する現代のアメリカンドリームは、プロデューサーの一言であえなく瓦解する。そんな弟が目指そうとするというか逃げようとするのが兄の古いアメリカンドリームの世界だが、その兄は破綻して戻ってきたのだ。アメリカンドリームにこだわる限り、行き場はどこにもなく浮遊するしかない。

 ラスト、弟に電話コードで首を絞められて動かなくなっていた兄がピョンと勢いよく跳ね起きて、ドキッとさせられる。
 この舞台は福岡ではきょうとあすで2ステージ。少し空席があった。


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