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《2013.10月−18》

ユーモアや驚きにあふれた舞台に、惹き込まれた
【お皿の話〜What is last one〜 (劇団 go to)】

作・演出:後藤香
26日(土)20:00〜21:20 ぽんプラザホール 1,500円


 デテールまできちんと描き込まれたユーモアや驚きにあふれた戯曲を、繊細で的確な演出でていねいに舞台化していて、個性的な女優たちの魅力があふれた舞台になっていて惹き込まれた。

 ドラマ仕立ての英会話番組を制作しているケーブルテレビ局のスタジオ控室。火野葦平の短編小説「皿」を英語ドラマにするための稽古を繰り返す女性ディレクターと女優たちだが、それぞれの思惑が錯綜していく。

 火野葦平の「皿」は、古井戸の中でまだ皿を数え続けている番町皿屋敷のお菊(の幽霊)を見たカッパが、お菊のために10枚目の皿を探し出す、という話だ。
 収録中のその話の展開とリンクするように、女性たちの思いがじわじわとわかってくる。カッパ役のベテラン女優は、仲間がテレビ局にスカウトされたのと、主役のお菊を新人女優に奪われてあせっていて、売り込みに必死だし新人女優にはにくじする。女性ディレクターは、かって勤めていたテレビ局への復帰はあきらめて今の仕事をキチンとやり抜こうとしている。そんなディレクターを強く敬愛する新人女優は、ディレクターのテレビ局復帰を勝手に画策する。
 カッパから10枚目の皿を受け取ったお菊はどうなったのか。10枚目の皿が揃ったとたん、お菊は皿を数える充実感をなくして衰弱していき、訪ねてきたカッパに10枚目の皿をつき返す。それでもお菊に元の充実感は戻らず、絶望して9枚の皿を粉々にしてしまう。
 ベテラン女優と女性ディレクターを対比させている。願いを封印している女性ディレクターはお菊さながらに、激しく親愛の情を訴える新人女優のカッパ並みのおせっかいを強く責める。クライマックスのそのシーンの2人のやりとりは英語でやられ、わたしの英語力では正確なセリフは聴き取れなかったが、大筋まちがっていないと思う。スカウトされたいという願いが叶わずにあせりまくっていたベテラン女優は、そのやりとりを聞いて落ち着いていく。

 そんな骨格を持ったやや重たい話を、劇中劇と現実を行き来しからませながら、ユーモアあふれるセリフと軽快な演技でテンポよく進めていく。
 カッパの扮装をした重松順子(ベテラン女優)が出てきたときはその迫力にギョッとし、ふかふかまくら(弁当屋)の2匹目のカッパ登場でウオ〜ッとなり、後藤香(ディレクター)のカッパ登場で3匹そろったら、もう爆笑。インパクトがある。その3人と小坂愛(お菊)との4人だけの出演者で、舞台外の動きまでも自然にわからせる。
 後藤香の繊細な演出は、とても注意深く見ていなければ大事なところを見逃してしまうが、今回も収録本番用の皿が10枚とも割れてしまったのはどのタイミングか、皿の割れる音を聴き逃してしまった。そのためもあってか、観終わったあとも何かうまく割り切れないしこりのようなものが残っている。それが火野葦平の「皿」のラストで感じたしこりと繋がっているかもしれないと考えていらつくので、もうしばらく暖めてみる。

 この舞台は「劇団 go to」の第3回公演で、きょうとあすで4ステージ。少し空席があった。
 後藤香は、「劇団 go to」第1回公演「タンバリン」で「九州戯曲賞」を受賞した。よくぞ「九州戯曲賞」に応募していただいたと感謝したい。その「タンバリン」公演は見逃したが、第2回公演も今回の公演もとてもおもしろいので、楽しみに観続けたい。


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