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《2014.7月−3》

腹に響く怪談噺
【桂歌丸 独演会 語り直して三遊亭圓朝作「怪談・真景累ヶ淵」 (TVQ九州放送)】


8日(木) 18:35〜20:40 アクロス福岡イベントホール 3,400円


 歌丸師匠が病後ということもあり、「怪談・真景累ヶ淵」は、予定されていた「第四話・勘蔵の死」が割愛されて「第三話・豊志賀の死」だけになったが、絶妙な語り口で楽しませてくれた。

「青菜」(桂枝太郎)
 隠居の家でごちそうになった植木屋が、隠居夫婦が青菜がなくなったことを「鞍馬から牛若丸が出でまして、名も九郎〔菜も食らう〕判官」「ああ、義〔よし〕経にしておこう」という隠語で伝えあっているところを聴いて、自分も帰って友だちの大工にやってみようとするが・・・。
 この会の観客は多くが、病後でもあり歌丸師匠を早く見たくてたまらない。そういうのが伝わったか、硬くて、乗っているようには見えなかった。桂枝太郎は歌丸師匠の直弟子の真打で、師匠と同じ落語芸術協会所属。「青菜」の口演時間20分。

「後生鰻」(桂歌丸)
 口演時間30分のうち、入院の話などのマクラが20分で、本編は10分だった。「第四話・勘蔵の死」を割愛するようなプログラム変更を納得させようと、歌丸師匠は病気の説明をていねいにした。師匠が体調を崩されたことは観客は知っていて、公演が流れずによかったと思っている人も多いのだろう、客席はむしろホッとしたような表情だった。
 登場前に幕が閉められ、幕が開くと高座に歌丸師匠。肺気腫から肺炎になって2ヶ月間入院した経緯を話され、息苦しくなるので予定していた「第四話・勘蔵の死」をやめて、「第三話・豊志賀の死」をノーカットでやるということだった。そのあと、見舞いに来てくれた笑点メンバーの手土産の話で笑わせた。
 「後生鰻」は、浅草の観音様参りの帰りがけに隠居が鰻屋の前を通りかかり、鰻屋が割こうとしいる鰻を買い取って川に逃がしてやる。そんな日が続いて鰻屋は左うちわ。そのうちしばらく見えなかった隠居が通りかかったが、鰻がないので女房を割き台の上に・・・という噺。最後に川に放り込まれるのは鰻屋の子供というのを、歌丸師匠は女房に改変している。テレビでのしゃべりと違って歌丸の語りはていねいで重厚な感じさえする。声の鍛え方が半端ではないのがわかる。短いけれど聴き応えがあった。このあと中入り。

「怪談・真景累ヶ淵 第三話・豊志賀の死」(桂歌丸)
 「真景累ヶ淵」は、三遊亭圓朝による全97章という長編の怪談。明治期に活躍し近代落語の祖と呼ばれる三遊亭圓朝の代表作の一つだ。高利貸の鍼医・皆川宗悦が金を貸した酒乱の旗本・深見新左衛門に斬り殺されたことを発端に、両者の子孫が次々と不幸に見舞われていく「真景累ヶ淵」の前半部分は特に傑作といわれる。新左衛門の次男新吉と宗悦の長女である富本の師匠豊志賀との悲恋「豊志賀の死」も、抜き読みの形で高座にかけられることが多い。
 途中で噺を停滞させないように、まず最初に「あんこつ」という駕籠の説明。その説明から本編に入ると、歌丸師匠の語りの口調は腹に響くような迫力を帯びる。十数年前から取り組まれている噺だから非常に安定していて、とても病後だと思えないほどだ。嫉妬に狂う豊志賀の描写や、若い女性に惹かれていく新吉の心情をうまく出している。幽霊が出てくる場面は、しつこくはやらないが怖い。ただ、豊志賀と新吉との関係を逆転させるふたりの濡れ場は、色気を抑えてかなりさっぱりしている。歌丸師匠の圓朝語りを堪能した。口演時間約55分。

 この公演は福岡ではきょう1ステージ。満席だった。


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