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《2014.7月−5》

身につまされるぜ
【おとこたち (ハイバイ)】

作・演出:岩井秀人
17日(木) 14:05〜16:15 西鉄ホール 3,500円


 キレのいい舞台で楽しめた。描かれた4人の男たちそれぞれの生き様にいちいち思い当たるところがあって、身につまされた。

 仲の良い男たち4人の大学卒業後から人生のおしまいまでの話。

 題名どおり4人の男たちの人生をその晩年まで追っかけた“大河ドラマ”的作品で、部分を拡大してほじくり返すようなこれまでの作風とかなり違って、大きな時空をピックアップして凝縮していて本格的作風を感じさせた。
 その際の突っ込みやユーモアや肩すかしはまさしく岩井ワールドだが、シニカルな目はかなり押さえ気味。包み込むような優しさがあって、いつものヒリヒリ感はかなり薄かった。

 舞台は後方が2つに分かれていて、その前方真ん中にカラオケルームなどになるテーブルとソファがある。その3つの空間を移動することで場面転換を行う。
 男たちは、製薬会社サラリーマン〔鈴木〕、コールセンター勤務〔山田〕、居酒屋バイト〔森田〕、元子役スターの俳優〔津川〕 の4人で、大学の同級生。かれらはときどきカラオケなどして旧交をあたためるという間柄だ。
 最初のシーン、“82”という数字が薄く映し出されると、認知症の82歳の山田が老人ホームで、遠い記憶をたどるように鈴木の名前をつぶやき虚空に向かって弱々しく話しかける。そこから、数字は“24”に変わりカラオケの場面で、そこからさらに“25”“30”“35”“43”“53”65”“75”と場面は変わって、ラスト“82”に戻ってくる。4人の男たちの人生に係る60年近いスパンをギュッと凝縮して見せるが、選ばれた年齢は単なる通過点ではなく転換点であり、境遇も変わっていく男たちそれぞれの生活の中での修羅場は避けられない。そこをうまく引っぱり出している。

 大学卒業当初はさほど差がなくても、働き盛りになると若いころからの生き様や性格による社会的な差が顕れてきて、4人の間の関係も少しギクシャクする。いちばん生活が不安定だった津川が若くして死ぬ。順風満帆だった鈴木も成長する息子とうまくいかなくなる。鈴木は65歳で死ぬ。そのあと、浮気を繰り返していた森田も死に、無難に生きた、認知症の山田だけが残される。
 安閑に生きたいけれど、そう簡単にはいかない。何とかしようとしてよけいなことをしてしまう。そういうときの判断はだいたい間違っている。そしてドツボにはまってしまう。それでも生きていかねばならないバカで哀しい男たち。身につまされる。
 ほんとにこの話、重苦しくしようとすればどこまででも重苦しくできそうだし、情緒的に引っぱって泣かせることもできそうなそんな内容を、やや突き放し気味にほとんど軽快というテンポに、カラオケの大音声などで区切り・メリハリをつけて進めていく。中高年から老年の男の心情をよくとらえていて、岩井秀人がいかにも人生を達観しているような感じにさえなってくる。しかしそれは、男たちとかれらのまわりのできごとが、決して大仰ではないが的確に描かれていて、それもありとばかり自分の中でストンと腑に落ちているからだろう。そういう筆力、演出力なのだ。

 4人の男を演じる、岡部たかし・菅原永二・平原テツ・用松亮 の演技からは、役の個性と生き様が立ち昇ってきた。いくつかの役を演じる、安藤聖・永井若葉・岩井秀人 もいい。
 この舞台は福岡ではきのうときょうで3ステージ。かなり空席があった。


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