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《2014.7月−7》

竜頭蛇尾
【怪奇!!蛸人間誕生 (ぐにゃり)】

作・演出:谷岡紗智
19日(土)18:10〜19:05 福岡市立青年センター 3階会議室 500円


 ぶちかましてくれるかと期待したが、舞台の進行とともに期待は萎んで、竜頭蛇尾に終ってしまった。

 近未来。オリンピック開催に盛り上がるニッポンで蛸人間が生まれた。そのことを両親は隠し通そうとするが・・・。

 作・演出は、2012年に「家出」で九州戯曲賞大賞を受賞した谷岡紗智。ぐにゃりの第1回公演だった「家出」の舞台は見逃したが、九州戯曲賞受賞作のリーディング公演での上演では一見何気ない会話に大きな意味を籠めることができる筆力を感じた。ぐにゃり第2回公演「台風」は、不安定な日常の恐怖を描いたよくできた戯曲なのだが、舞台の雑駁さのために、その魅力を十分には引き出せていなかった。
 ぐにゃり第3回公演である今回の「怪奇!!蛸人間誕生」では、戯曲はアイディア不足の上にセリフの魅力にも乏しいために一本調子で精彩を欠いていた。演出も演技も膨らませようがなかったのか、十分な稽古で本気になって練り上げた形跡が見えず、前作「台風」よりもさらに雑駁な印象になってしまった。

 開幕前、大蛸がダイナミックに描かれた幕を見て、どんな話が展開するかと期待が膨らむ。だが、放射能が原因で蛸人間に生まれた女性を両親は捨て、独身女性に拾われて育てられる―という状況を、にわかシングルマザーやひきこもらせの話で延々と引っぱる。蛸人間もそのまわりの人も孤立していて何もせず、当局に蛸人間の誕生はなかったことにされてその体は実験材料にされる。
 ひよわな社会劇風のところで低迷していて、期待していたSFもホラーもバイオレンスもない。乗り越えなければならないものが何もないという作りで、だからといってパロディにもブラックユーモアにもならないから、ラストまでイライラが続く。ラストからスタートして「蛸人間の逆襲」かなんかやってくれたほうがよほどおもしろい。

 演出については、舞台転換の工夫を見せたのははじめのほうだけ。語り女3人に少しサイケなメイクをさせて客席側から登場させたりするが、演技の質が追いつかずに浮いてしまう。各シーンごとにキチンと演出意図を徹底させているとはいえず、俳優の動きも中途半端だ。そんなシーンが屹立するはずもなく、トロい転換でダラダラと続く。
 俳優たちの演技は、自身の“素”から脱却できず引きずっていて演技の幅は狭い。役の理解が十分とはいえず、演出からストレスをかけられて演技を練り上げたようにも見えず、義務的にこなしているという印象さえあった。

 この舞台は、福岡市立青年センター・くうきプロジェクトのワンコインシアターとしての上演で、きのうときょうで3ステージ。50席ほどの客席は満席だった。


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