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《2014.7月−9》

けっこう甘い、初期の和製ミュージカル
【見上げてごらん夜の星を〜ミュージカルこそわが人生〜 (イッツフォーリーズ)】

原作・作詞:永六輔 音楽:いずみたく 演出:北澤秀人
28日(月)12:35〜15:05 ももちパレス 3,430円


 1960年初演のこの和製ミュージカルは、現実を意図的に甘く描いて希望を謳いあげるという作りだったことがわかる。歌は悪くないけど。

 昼間は働き夜は定時制高校に通っている坂本とそのクラス仲間。昼間の高校で坂本と同じ教室の同じ机を使っている女生徒・ユミコと机を介して文通が始まり、会ったことがないままにユミコは仲間のアイドルに。そんなある日、坂本は自分の机の中に女物の財布を見つける。

 舞台は、グランドピアノの上にさらに逆さにグランドピアノを置いた形をイメージした大きな装置の上で繰り広げられる。最上段上手にピアノがあってそこで、初めてミュージカルを作曲するいずみたくの話が同時進行する。
 いずみたくが、新しく生み出そうとしているミュージカルの作曲に悩み苦しみながらも力を尽くし、動き出した人物たちを見守り自身も影響を受けていくという入れ子構造になっているのは、いずみたく没20年を記念した公演だからだろうか。

 甘いと思ういちばんは、財布を見つけた坂本が、授業料が払えなくて退学させられそうな仲間の授業料を払うために、その財布から無断拝借してしまうこと。窃盗じゃん。あとでそのことを知るユミコも、ニコニコしながら許してしまう。そしてリアル恋愛関係に。それはないだろう。
 仲間みんなとユミコ姉妹がサイクリングに行く坂本の実家が、わずか20キロしか離れていないというのもなかなか納得できない。だったら実家から通えばいいのに。坂本の母の様子も、中学だけで息子を働かせなければならないほど困窮しているようには見えない。
 そんな甘さだから、坂本とユミコの恋愛も何の障害もなく進むが、そう簡単にいくはずがない。

 そんなことを言っていたら暗い社会派の芝居になってしまうし、そんなミュージカルがヒットすることもないだろうから、そこはごまかしてでも明るくやろうということだろう。
 いずみたく作曲のミュージカルは、1960年代の終わりから音楽鑑賞団体の公演で観ることが多かった。ミュージカルとは言っているがダンスと呼べるほどのアクションはない。それでもけっこう楽しんで観ていた。
 この「見上げてごらん夜の星を」は、その表現においても現代に合うような改訂はなされていない。ゆるいアクションがあるだけでダンスはなく、したがって歌って踊ることもないから、ミュージカルではなくてただの歌芝居だ。
 ただ、たくさん歌われる楽曲はいい。歌を聴くためにストーリーがあると思えばいいのかもしれない。

 ミュージカル「見上げてごらん夜の星を」は、1963年に坂本九主演で再演され、坂本九主演で映画化もされて、坂本九が歌った「見上げてごらん夜の星を」がヒットした。その後も1970年代にフォーリーブス、南沙織の主演で上演されている。この公演はほぼ30年ぶりのリニューアル公演となる。
 この舞台は福岡市民劇場7月例会作品で、22日から28日まで8ステージ。満席だった。


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