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《2014.8月−6》

密度の高い、本格的な舞台
【タンバリン (劇団goto)】

作・演出:後藤香
13日(水)20:00〜21:35 ぽんプラザホール 1,500円


 脚本・演出・演技ともにていねいに練り上げられていて密度の高い本格的な舞台になっている。わたしが観た、この5年ほどの間に福岡都市圏で作られた舞台のなかでは、最良の舞台だ。

 突然ボクシングを始めた喜寿目前の女性。彼女を支えようとする娘と教え子の女性教師も、影響されてボクシングを習うことに。本格的に習いたい彼女らはジムに入ることを望むが、彼女らを教えている女性トレーナーはなぜか、彼女らが入るジムを探そうとはしない。

 舞台一面がボクシングのリング風に作られているが、柱とロープがないのでほとんど裸舞台に見える。
 主人公の鈴は後期高齢者で、娘の鳴子と女性教師の新藤は同世代で初老ともいえる年齢。女性トレーナーの響香もアラフォーだ。鈴がボクシングを始めるのは「強くなりたい」からだが、生物の教師だった彼女の「ムリをしてこそ(『種』は)進化する」という信念に支えられている。
 そんなハードルの高い状況設定のなかで、響香の勝手な思惑もあって一度は離反するが、皆にボクシングへの思いがあって乗り越えて、スパーリング大会で2分間のマススパーリング(打撃を当てないスパーリング)をすることになる。
 王道ともいえるストーリー展開を、ボクシングの話と生物の進化の話をからめてていねいに描いていく。ていねいではあるがくどくはなく、鬼塚勝也氏の指導を受けたというボクシングなどからの多くの情報とアイディアをうまく入れ込んでいてわかりやすく、スッキリした印象だ。

 そんな話を4人の出演者で進めていく。そのための工夫もなかなか楽しい。
 ジムの男性の声はタンバリンの音で表現する。鳴子と新藤の家族とのやりとりでは、家族やペットは声だけが登場する。場面転換は4人が舞台上を歩いてフォーメーションを変えるだけ。時にド〜ンとくる音楽や、産声を小さく聴かせる音響などの工夫もあって、濃い内容の舞台が実にテンポよく進む。
 鈴と鳴子と新藤は、衣装もメイクも俳優の実年齢そのままだ。はじめは若干違和感があるがすぐに慣れる。そのため、若いころの回想シーンにもスッと入っていける。ただ、トレーナーの響香だけは歳相応にくたびれたメイクで、ほとんど仮面のようなその顔の印象を終盤まで変えない。

 主宰で作・演出の後藤香は、主宰していた劇団K2T3をやめたあとしばらくしてこの劇団を作った。所属の女優3人に女優1人を客演に迎えて女優4人の出演者という舞台が多い。そういう制約を逆手にとっておもしろい舞台を作り続けている。きょう舞台では鈴を演じた小坂愛の成長に目を見張った。
 劇団gotoの第1回公演だったこの「タンバリン」は2012年に初演。九州戯曲賞大賞を受けた。「タンバリン」は後藤香の新しい出発の宣言の舞台だ。初演を見逃していたので、今回再演が観られてよかった。ただ、客演の女優が替わっているので、キャラの構成が微妙にずれて初演とは少し印象が違っているのではないかと想像する。

 この舞台はきょうとあすで4ステージ。ほぼ満席だった。


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