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《2014.8月−13》

トコトンやる、深井順子
【橙色の中古車 (FUKAIPRODUCE羽衣)】

作・演出:糸井幸之介
23日(土)16:05〜16:55 Contemporary Space CMVC(日田) ひた演劇祭通しチケット3,000円


 アルゼンチンを行く女一人旅を描いた脚本のセリフがおもしろく、舞台を跳ね回る深井順子の熱演も楽しめた。本公演ではないが、観たかったFUKAIPRODUCE羽衣の舞台をやっと観られて、それはよかった。

 離婚を機にアルゼンチンにやってきたアラフォーの女性。有料クジで引き当てた1等の賞品が橙色の中古車。それに乗って女性は、アルゼンチンを最南端まで南下する。

 会場はパトリア日田そばのContemporary Space CMVCという広くない空間。大きなスピーカーが左右に置かれ、上手奥にはピアノがあるが、スピーカーもピアノもこの舞台上演には関係がない。上演に関係があるのは、天井からの糸で水平に吊り下げられた金属製の棒だけ。下手のスピーカーと壁の間に「STAFF ONLY」と書かれた広めの板が立てかけてあって、その後ろの狭い空間が楽屋だ。

 大きな真っ黒のスーツケースを押しながら出てきた、ドレス調の真っ黒なワンピース姿の深井順子。黒一色の中でガイドブックの黄色が目立つ。出てきた深井順子は、はじめから超ハイテンションだ。
 ところはダラス空港。ブエノスアイレス行きのアメリカン航空便に乗るところから話は始まる。機内の様子などを語って、海外旅行のウキウキ感は伝わってくる。何でアルゼンチンに行くかもさりげなく話の中に盛り込まれる。
 ブエノスアイレス到着。高揚感と若干のたいくつがうまく描かれる。そして夜の街へ。ショーを観たあとダンスサロンへ。声をかけてきた若者とダンスしてディナーしてホテルに連れ込んで一夜を共にするが、翌朝かれは消えていた。
 町で有料クジを買って、1等を引き当てる。その賞品が橙色の中古車。はじめはうれしくなかったがまわりに囃されてその気になり、橙色の中古車でアルゼンチンを南下することを決める。女1人のドライブ。スキー場でスキーをし、大西洋を見て、氷河を見て、最南端のピーグル海峡に到着する。

 脚本にはいっぱいのユーモアがキレのいい言葉で盛り込まれていて、その感覚は跳びはねるように軽い。その軽さを深井順子が取り込んで増幅して会場いっぱいに撒き散らす。
 深井順子はとにかくよく動いて休まる暇がない。カッコ悪い姿勢を厭わず、手足をいろんな形にトコトンまで大きく開閉する。ムダに動いているように見えるが、その過剰感も舞台の雰囲気を作る。その身体は常に観客に開いていて、観客に語りかけたりいじったりも多い。
 長い旅で女は、橙色の中古車と同化してくる。それは心地いいのだが、それでも女は、到着したピーグル海峡である行動に出る。旅に慣れた終盤はかなり単調で、ラストに持っていくためには象徴的なエピソードがあってもいい。

 この舞台は、ひた演劇祭参加作品で、きょうとあすで2ステージ。満席だった。きょうの舞台はこの作品の初めての上演になる。
 終演後に糸井幸之介と深井順子によるミニライブがあり、「羽衣のテーマ」と「サロメとヨカナーン」の2曲を歌ってくれた。こっちのほうが普通のFUKAIPRODUCE羽衣 に近いのかもしれない。楽しかった。


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