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《2014.8月−14》

おもしろいんだけどねぇ
【豆、暗闇に弾ける (ソングライン)】

脚本:ヤクモ・レイ 脚色・演出:半田和則
23日(土)19:05〜20:45 パトリア日田 小ホール ひた演劇祭通しチケット3,000円


 劇団初のオリジナル戯曲の上演は、いろいろ工夫もあって演技も生き生きとしていて楽しめた。ただ、ウケねらいのあざとさが積み重なって、ラスト近くに破綻が見られたのが残念だった。

 文政のころ、日田に豆田小僧というこそ泥がいて、弟子のチョロ吉とともに、「目立たず、小銭しか盗まず、人を殺さず」の三原則を守っていた。あるときチョロ吉が誤って岡っ引を殺してしまい、豆田小僧が身代わりになって入獄し、3年後に放免された。

 劇団ソングラインの舞台は、一昨年のひた演劇祭で上演された「MIDSUMMER CAROL ガマ王子VSザリガニ魔人」を観て、既存戯曲の上演をなぞった舞台のキレの悪さに辟易して、観る気が失せていた。それが、ことしは劇団初のオリジナル作品ということで、観てみる気になった。
 脚本は、昨年のひた演劇祭の永山智行氏が講師の戯曲講座に参加した劇団員のヤクモ・レイのオリジナルだ。日田を舞台にした時代劇エンターテインメントで、上演より前に行われた演劇祭のトークイベントでヤクモ・レイが、既存戯曲の上演より自由度が増して楽しかったと言っていたが、確かにそれは感じられる舞台だった。
 脚本上の工夫にくわえ演出にも楽しませる工夫があり、俳優たちも生き生きと演じていて、既存戯曲の上演で感じた変な重苦しさは払拭されていた。ただ、サービス精神が過ぎて、整合性を無視したような行き過ぎた展開でリアリティを削いでいた。荒唐無稽なエンターテインメントであっても、基本的なリアリティが壊れるほどに逸脱すると拒絶反応が起きる。観ている間はおもしろいが観終わって若干のあと味の悪さが残るのは、拒絶反応が起きかけていたということだろう。

 オープニング、登場した豆田小僧がとても小柄なおばさんだという意表を衝く設定にまずビックリする。ひょこひょこと軽妙な動きでReikoの豆田小僧が笑わせる。ラジオのDJや甲子園の土を持ち帰るパフォーマンスなどクスリとさせる。メインである山田屋のシーンでの、不老不死のクスリ“人魚の灰”をめぐる怪盗団どうしのバトルを、ダンスなども入れてファッショナブルに見せる。大きなダンスロボットの登場にビックリし、そのユーモラスな動きに笑い転げる。
 そういうところだけを何も考えずに楽しんでいたいところだが、解決しないまま放置されている“?”が胸に溜まっていく。チョロ吉が首領となった怪盗団と女盗賊紅孔雀の、山田屋への予告状が同じ筆跡だったというのは重大な伏線かと思いきや、無視。かと思えば、チョロ吉の手下新九郎が実は紅孔雀のスパイだったというのには何の伏線もなし。何千両も盗むチョロ吉の怪盗団が、何で千両で買える“人魚の灰”を狙って紅孔雀と争うのか。しかも“人魚の灰”は紅孔雀が占い師に化けて山田屋に売りつけたものだ。ひどいのは、死んだはずの岡っ引が実は生きていて、ラスト近くにマシンガンを持って登場すること。こうなると、豆田小僧の3年間の入牢は何だったっけ? そんな、話全体をズタズタにするようなことを、ちょっとしたおもしろさ狙いでやっちゃいかんだろ。終盤の楽屋落ちネタの多さも気になる。
 俳優たちはみな元気だ。そのなかでも山田屋娘・お静役の永山鈴子の演技が秀逸だった。

 この舞台はひた演劇祭参加作品で、きょうとあすで2ステージ。かなり空席があった。


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