福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ  前ページへ 次ページへ


《2014.8月−17》

設定は、奇抜でおもしろい
【馬鹿やろう、そこは掘るな (万能グローブ ガラパゴスダイナモス)】

作・演出:川口大樹
27日(水)19:35〜21:30 甘棠館Show劇場 プレゼントチケット


 洞窟のセットには驚かされるが、初演を観ているのでそのインパクトはかなり弱まった。奇抜な設定で楽しんで見られるが、無用なにぎやかしが全体の緊張を却って削いでいたところがあった。

 お笑い芸人だったセイタロウの結婚の知らせに、思い出の洞窟に集まる中学時代の同級生たち。そこで小規模な人前結婚式をやろうというのだ。そこには、新しい相方クジがいるのにセイタロウとのコンビを再結成したいジョニーと、ジョニーに捨てられることを恐れたクジも。さらに、連絡が取れなかったセイタロウの初恋の人パーコも現れる。

 万能グローブ ガラパゴスダイナモスが過去の作品を4本連続で再演するガラパコレクションの3弾目。2009年に初演された「馬鹿やろう、そこは掘るな」の再演だ。
 初演の「馬鹿やろう、そこは掘るな」は、劇団創設5周年記念公演として2009年10月1日から31日までで25ステージというロングラン公演をした舞台で、1,200名を動員した。それは、福岡の小劇場界に強いインパクトを与える画期的な公演だった。甘棠館show劇場全体を洞窟にしていて、まずそこで度肝を抜かれた。そこだけに満足してしまって、舞台はそれなりにおもしろかったけれども、強い印象を残したというわけではなかった。
 今回の上演は、初演と同じ甘棠館show劇場で8月26日から9月4日まで13ステージだから、初演に比べてステージ数は減ったとはいえ立派なロングラン公演だ。出演者7人のうち3人が替わり初演と同じ出演者は4人。全体的な雰囲気は初演とほとんど変わらない。

 劇場入り口が初演の時と変わっていたが、それは客席も洞窟の中というのをさらに徹底するためで、四方を洞窟の壁に囲まれて客席にも若干の閉塞感が漂う。正面の壁の前の狭い空間がメインの舞台で、その手前が40席ほどの客席。正面の壁の右手と左手に奥の洞窟への出入り口があって、それらは中で繋がっている。背面右手に外部との出入り口がある。席に座ってみると、いかにも洞窟の中にいるという気分になってくる。まぁそれで、この舞台は半分は成功したということかもしれない。
 開幕すると、3つの出入り口から出演者を頻繁に出入りさせる。舞台で話される情報は観客にはわかるけれど、それぞれの登場人物には情報の一部しかわからない。そこには、憶測やウソや聞き間違いや勘違いも紛れ込む。そのために登場人物がパニックに陥るのを眺めて楽しむ。そんな意地悪い趣向にも見えるが、それが他愛なく軽く描かれていてるからイヤな感じはしない。
 結婚したいがお笑いもあきらめきれないセイタロウは、結婚相手のチズルにお笑いをやめると約束しているのに、元相方のジョニーにはお笑いコンクールに出ると言う。この矛盾を解消するために、チズルに内緒でお笑いコンクールに出場しようと画策するセイタロウだが・・・。さらには、初恋の人パーコがここにいるためにチズルへの態度があやふやになってチズルの不興を買い、女の子が生まれたら名づけると決めていた“アヤノ”という名が初恋の人の名(パーコの本名)だとチズルにわかってしまい、セイタロウ絶体絶命に。
 セイタロウのパニックを楽しむという狙いに乗ってうまく作っていて、その流れに身をまかせていれば、それはそれで楽しめる。

 と、ここで素直に感想を終ればいいものを、天邪鬼で困る。いろいろ気になることが多くて、それに触れないではいられない。
 まず気になったのがセイタロウの初恋の人パーコのこと。開幕30分で幽霊であることが臭わされ、そのすぐ後にはパーコが壁のなかから登場する。開幕後1時間前後で、パーコが人前結婚式の証人欄に本名をサインする。同じころ結婚披露宴の案内へのパーコの家族からの返事で、パーコが亡くなっていることが知らされる。それのときのチズルの様子を見てパーコは軽くうなずきさえする。この証人欄へのサインの本名と家族からの返事のパーコの本名と、さらには女の子が生まれたらつける予定の名前と、それだけ情報があれば、チズルにはパーコがセイタロウの初恋の人と(たぶん)知らなくても、そこにいるパーコが幽霊だとわかるんじゃないか。それがわかったからセイタロウを半分許したのかと思ったが、そうは見えなかった。わたしのなかではうまく落ちなかったけれど、何か大事なものを見落としたかな。元々ここはうまく落とさなくてもいいのかな。
 俳優たちの演技は、脚本上の本筋も枝葉も一様に大仰で大声で、緩急にも強弱にも乏しい一本調子。騒々し過ぎるほどに緊張はなくなり、表面的にテンポいいように見えながら、内面的なテンポはかき乱される。人物の個性の描き分けが不十分で、みんな同じように見える。チズル役の横山祐香里がうまく演じていたが、あとは、お笑いがお笑いらしくなく、オネエ演技は中途半端で、パーコは元気よすぎた。

 この公演は、劇団万能グローブ ガラパゴスダイナモスとテレビ西日本との共催で、スリーオクロックの制作協力。テレビ西日本でCMが流れていた。満席だった。


福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ  前ページへ 次ページへ