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《2014.9月−1》

奈良岡朋子のヘアとメイクに、違和感
【八月の鯨 (民藝)】

作=デイヴィッド・ベリー 訳・演出=丹野郁弓
3日(水)13:35〜15:35 ももちパレス 3,430円


 キッチリと作られた舞台も、どこか気になることがあるとそれが全体のイメージに大きく影響することがある。この舞台の奈良岡朋子のヘアとメイクに感じた違和感が、舞台の骨格をきしませて全体をぼやけさせてしまったところがあった。

 86歳のリビーと75歳のサラの姉妹は毎年、アメリカ東海岸の島にあるサラのサマーハウスで夏を過ごす。目が不自由になった姉のリビーのめんどうを甲斐甲斐しくみている妹のサラも、さすがに姉をもてあまし気味に。そんなときふたりのところに、ロシアの亡命貴族マラノフがやってきて・・・。

 この戯曲は、1980年にリーディングとして始まりニューヨークなどで上演された。1987年にデイヴィッド・ベリー自身の脚本により映画化され、広く知られるようになった。デイヴィッド・ベリーは1943年生まれだから30代のときに書いた戯曲だ。この戯曲、日本でもよく上演されている。
 リビー役の奈良岡朋子が84歳、サラ役の日色ともゑが73歳だから、役の年齢に近い女優が演じる。マラノフは何歳だろう。1910年にロシア皇帝の晩餐会に出ているから、この戯曲が描く1954年時点では70歳前後か。パリに亡命しその後アメリカに渡って漂流していて、寄留先の83歳の女性をなくしたばかりだ。マラノフ役の客演・篠田三郎は65歳。ほかに、サラの幼なじみティシャ役の船坂博子61歳、修理工ジョシュア役の稲垣隆史77歳。
 舞台にはいっぱいにリビングとダイニングがリアルに作られていて、手前にはテラスがある。場面は、8月のある日の午前・午後・夜と翌日の朝の2幕4場。リビーとサラの会話が多い。

 まったくキャラの異なる奈良岡朋子と日色ともゑを組み合わせて、その絡みに篠田三郎を割り込ませる。
 サラ役の日色ともゑは、元看護師で、家事を厭わず気難しい姉のめんどうをかいがいしくみる親しみやすい人物をうまく作っている。リビー役の奈良岡朋子は、プライド高く気難しくてうつ状態に近い。それにしても、奈良岡朋子とも思えない平板さでリビーがいっこうに膨らまない。

 奈良岡朋子がはじめて登場するシーンでは、ふくらみがなくて頭にへばりついたような長くて真っ白な髪と、目の下の隈などを強調した表情を表さないメイクに、“山姥”を連想して引いてしまった。髪を結ったあとではそれなりになったけれど、気品なさ過ぎの最初の印象は後を引く。見るに、奈良岡朋子の演技はこの人らしいキレも存在感もかなり弱くてリビーの感情の幅を狭めていて、マラノフへの優しさにときめいたり他に嫉妬したりマラノフを嫌悪したりという、心情の繊細な変化を十分に表しているとはいえなかった。ただ、わたしの年齢からしてサラの気持ちは量りえても、リビーの気持ちについては実感できないこともあって、リビーのああいうありようもまたあるのかもしれないと思わないでもない。なんせ1954年の86歳だから。
 篠田三郎は素直で優雅なのはいいが軽くて、マラノフの抱えているものが十分には出ていない。稲垣隆史の演技で、ドアを閉めたり道具箱を落としたりという大きな音を立てるところがわざとらしすぎる。形を満たすことしか考えない新劇演技の悪い典型を見た。

 この舞台は福岡市民劇場8月例会作品で、8月28日から9月4日まで8ステージ。満席だった。


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