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《2014.10月−3》

スカスカの舞台
【ファーム (サンプル)】

作・演出:松井周
11日(土)18:35〜20:20 北九州芸術劇場 小劇場 キタコレ(6演目)セット券13,500円


 全体的に緊張を欠いた、スカスカの舞台だった。

 近未来。遺伝学者の子として遺伝子操作されて特殊な体質に生まれた息子・オレンジは、他人の臓器を自分の身体に取り込んで培養する“ファーム”で、一般人の3倍の速さで歳を取る。バイト先のスーパーの店長と再婚したい母は父に離婚を求めているが、父にはその気がない。父は自分の皮膚の細胞から卵子と精子を作って受精させて作ったオレンジの弟を育てている。そんなときオレンジにガンが見つかる。培養を休むために、培養中のネコの目を依頼者の老婦人に引き取ってもらおうとする。

 舞台は4メートル四方の正方形で、上にテーブルとカウンターが繋いで置かれていてキャスター付きで舞台上を移動できる。舞台の四方には外側に、冷蔵庫、掃除機、ミキサー、小型扇風機が置かれている。舞台の下手手前と上手奥の角には、天井まで細い紐が張られてツタが絡んでいる。天井から吊り下がる照明用の5つのライトにもツタが絡まっている。
 登場人物は、父、母、息子(オレンジ)、男(スーパー店長)、老婦人、ゾーン・トレーナー(若い女性)の6人で、舞台に登場していないときは上手と下手の奥に置かれたイスに座っている。

 舞台は、俳優たちの小気味よい演技はみられるが、淡々と進む。父と母の離婚話は男(スーパー店長)も絡んでこう着状態になって、淡々と進んでいた展開も難渋してくる。ときに激昂して父などが大声を出すところはアクセントにはなっているが、そんなことでは何も進展しない。舞台はほぼ時系列だが途中1場面だけ、オレンジを“ファーム”とするための遺伝子操作についての父と母が話をする過去の場面が挿入されている。
 “ファーム”に係る再生医療の話と下世話な離婚の話が並行して進むが、2つの話は緊密には繋がらない。かろうじて繋がるのは、父が自分の細胞から母と関係なしに自分の子どもを作ってしまうところくらいだろうか。オレンジの親権の話など、離婚の話のトロさとオレンジの成長の速さのためにどっかに行ってしまう。
 そのような話の繋がらなさに加えて、再生医療の話も離婚の話も場面ごとに独立しすぎていて、変わっていく状況もちゃんとした理由がなくて勝手に飛び回っているという印象が強い。再生医療の話も離婚の話も十分に調べたり考えたりせずに思いつきを並べていて底が浅い。スカスカでたいくつなのはそのためだ。

 少し時が経ってオレンジは老けて、老婦人と結婚して老婦人に人工授精して老婦人は妊娠する。オレンジの弟はうまく発育できずに死んで、その骨でペニス状のオブジェを作り、ゾーン・トレーナーがSM風にそれを腰ひもで結わえてオレンジのアナルに挿入する。弟とひとつになったというわけだ。
 おぞましい感覚を少しばかり刺激されるところはあっても、そこまで。放置されていてそれが劇的感興を呼び起こすことはほとんどない。
 この舞台はそれぞれの場面を大雑把に構成しておいて、そこに思いつきのアイディアを突っ込んだんじゃないか。思いつきのアイディアだからちょっとはギクッとさせてもその場限りになり、全体を大きく結びつける力はない。スカスカはそこからきている。

 この舞台は北九州ではきょうとあすで3ステージ。少し空席があった。


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