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《2015.1月−2》

キャスト変更で演技の質が変化
【木になる僕らのものがたり〜tasteful clogs cafe〜 (けちゃっぷゆでたまご)】

構成・演出:永山智行
4日(日)18:05〜19:15 ぽんプラザホール 1,500円


 昨年8月にひた演劇祭で観たこの舞台の初演はすばらしい舞台だった。再演のこの舞台も悪くはないが、初演の舞台がほとんど奇跡的に成立していたことを確認する観劇となった。

 日田の川開き観光祭の日、下駄Cafeにはいろんな思いを抱えたひとが出入りする。そんな人たちが緩やかに繋がり、木を通して癒されていく様を描く。

 悩みを抱えた3人の女性が癒されて再出発していくところが、初演の舞台ではちゃんと感じられた。この舞台では同じ台本なのにそこがほとんど伝わってこなかった。それはたぶん、初演の下駄Cafeの舞台を覆っていた濃密な空気感がほとんど感じられなかったことと関係している。

 舞台は初演より狭くて配置がかなり変わる。2方向から観る形だった客席が今回は上から覗くような形になる。出演者は、重要な役である木山信治、榎木岳、阿南博士、笹木玲奈を演ずる俳優が初演メンバーから替わっている。
 開幕してしばらくしても濃密な空気が立ち上がってこない。ひとつひとつのセリフがその濃密な空気を震わせるような一体感・緊張感は望むべくもない。それははどうしてだろうか。初演の緊張や高揚が弱まっていることもあろう。キャストの変更に伴って一体感が薄れたこともあるだろう。だがいちばんの原因は、キャストの変更による演技の質の変化だと見る。

 この舞台の要となる木山信治役は初演も今回も客演だが、今回はこの人物は陰影に乏しくてその魅力を十分には表現できていなかった。榎木岳、阿南博士、笹木玲奈の役は、初演では公募してワークショップに参加した市民の人が演じたが、今回は劇団所属の俳優が演じた。今回の榎木岳と阿南博士の役の演技については違和感があった。榎木岳役はわざとらしく小技を使いすぎて軽すぎる。阿南博士も感受性に乏しい薄っぺらな人物にしか見えない。ふたりともどこか先走りするという演技でちゃんとした存在感がない。
 3人の女性がどう癒されるかは感じられなかったが、“木のせい”のところでは泣かされたから、舞台としては普通のできだ。初演の舞台は、いろんな力がみごとに上演に集約されるという幸運に恵まれた奇跡的な舞台だったということだろう。

 この舞台は福岡ではきょう1ステージ。満席だった。
 終演後、構成・演出の永山智行氏、ひた演劇祭プロデューサーの高野桂子氏、パトリア日田の内野雅子氏によるアフタートークがあった。ロビーでは下駄やしいたけや小鹿田焼の販売があった。


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