福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ


《2001.5月−5》

オリジナル・ミュージカルの奨め
【Black&Gold (ドリーム☆カンパニー)】

作・演出:徳満亮一
26日(日) 13:00 西鉄ホール 3000円


 初めてドリーム☆カンパニーのミュージカルを観た。10周年記念の「Black&Gold」である。地元劇団では珍しい西鉄ホールでの公演であり、ロビーも客席も華やかだ。
 代表の徳満亮一の作・演出で、実質上演時間が3時間、劇団員が総出演に近い。

 ドリーム☆カンパニーは地方では珍しい「オリジナル・ミュージカル」の上演を目的とする劇団である。
 徳満の所属していたテアトルハカタのミュージカルはいくつかみているが、子供向けというレベルから抜けきれず、印象に残っているものは少ない。子供向けあるいは子供がやるというテアトルハカタのミュージカルでは、大人の鑑賞を度外視した作りで、まだるっこいことこの上ない。テーマも決まりきっていて、30分も見れば結末はわかってしまうような作品が多い。青春ミュージカルというのもやはりパターンが決まりきっていた。
 そのような作品にかかわるなかで徳満が、欲求不満になり、自分がやりたい作品をやるために劇団を旗揚げしたのだと想像する。

 「Black&Gold」については、ほとばしり出る上演への熱意・思いと、出演者が楽しんでいることに引きずられて、乗せられて楽しんで見てしまうが、悪意をもって言えば、ストーリーは大時代的で陳腐で、人物も類型的で不満が残る、という作品ではある。オリジナルにこだわりゼロから作り上げた作品であり、若干の不満があってもしかたのないことだとは思うが。

 正義の怪盗団と日本を牛耳る黒幕との戦いに、車椅子の元女優の家族や国際警察がからみ、国際警察の警部と怪盗団首領と黒幕のメイドが兄弟妹だったという比較的安易な「実は実は」で強引に大団円に持っていく。無理を承知で見せ場を繋ぐための強引な筋立てだ。
 例えば、怪盗5人が用心棒2人に簡単にやられてしまうのかとか、黒幕がなぜ元女優を誘拐しなければならないかとかだが、考えて込んでもしょうがないのだ。個々の役者の見せ場を作るためもあるだろうし。それにしてもどの役者にも見せ場があるというのは、作品の締まりを犠牲にしているともいえる。外面的なテンポはよく見えるが、観客を引っぱる内面的なテンポが犠牲にされて、作品が大味になるのを避けられない。

 黒幕がリカちゃんフリークであるなどのアイディアは、単調になるのを救っており、楽しませようという努力が伝わってくる。しかし、観客におもねているような、子供向けとも思えるくすぐりと説明の多さは気になる。
 子供にもわかるということは、そういうことではあるまい。ディズニーのミュージカル「アイーダ」は決して子供向けではないけれど、子供も十分楽しんでいる、それでいいのではないか。

 音楽は、同じような曲が多くやや単調だった。もう少しメリハリがあってもいい。歌はまあまあだが、切れ味がほしい。マイクの使い方が、エコーがかかりすぎるなど不自然なのも気になった。
 振付も踊りも歌と同様な不満はある。しかし、役者は精一杯しかも楽しんでやっているのがいい。
 俳優では柴崎康二が個性的でいい。独特の味がある。

 今後のドリーム☆カンパニーにどう期待するかだが、作品についてはもっと幅を広げてほしいと思う。青春ものとかSFファンタジーばかりでなく、社会的なテーマも盛り込んでほしい。みんなかっこよく決めるのではなくて、アンサンブルで見せる作品もほしい。歌、踊りのレベルも上げてほしい。
 うまい歌、表現力のある歌はそれだけで感動的だ。「ドン・キホーテのペディキュア」という本で鴻上尚史が「フォビドゥン・ハリウッド」というミュージカルを評して、映画のパロディ集であるこの作品が下品にならないのは、「圧倒的に歌がうまいこと」のためと書いているが、よくわかる。
 歌もおどりもうまいとは、どう付け加えるかより、いかによけいなものを取り除くかにあると思う。洗練されたとは、よけいなものが取り除かれた結果だ。さらに洗練されて、楽しさの質をもう一段向上させてほしい。

 劇団のオリジナルだけを上演する姿勢には脱帽する。日本でのミュージカルのほんとうのオリジナル作品は、四季や宮本亜門を例に出すまでもなく、それほど多いとは言えない。オリジナルを上演しつづけるには強大なエネルギーが要るだろうが、続けていってほしい。そのために広く福岡の多くの才能を取り込んでいってほしいと思う。
 そして次の10年、柴崎康二を主役として、「コンタクト」のような趣向をこらした作品が上演されることを期待する。それが可能だという気がするのは、また鴻上尚史だが、四季の「コーラス・ライン」を評して、「ブロードウェイの作品はオーディションで誰が落ちるかわかるが、四季の作品では誰が落ちるかわからない」と、そのダンスのレベルの低さを揶揄していた、それがわずか10年ほど前のことだ。

 ドリーム☆カンパニーがいまの勢いを堅持して大きく飛躍して、福岡を大いに沸かせ大いに楽しませてくれることを期待する。


福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ