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松尾スズキの芝居は今回が初めてだが、そのすごさに圧倒された。
その舞台は、現実の最も厳しいところを鋭い刃物で切り取ったともいうべき激しさで展開される。
下半身が麻痺した男の、母親との濃密な関係、友人と妻との不倫を中心として描かれる。その壮絶な人間関係は、友情、親子の情、夫婦の愛、不倫、裏切りと何でもありで、それらが絡み合う。
表現が非常に新しいと思うのは、男のどうにもならない心象風景を、狂気すれすれを演じる俳優の柔軟な演技に併せ、装置や照明等の舞台効果を徹底的に使い尽くして表現していることだ。夕暮れの空の色のどす黒くたたきつけられたような赤など、印象が深い。
そのように若干デフォルメされよじれたところから、生血がしたたるような人の心に巣食う残酷さが突如姿を表す。
結果、すべての舞台のエネルギーをねじり合わせながら統合し、舞台全体が大きく揺らぐような迫力がある。
ムンクの「叫び」が揺らぎを2次元で表現しているとすれば、それが舞台で立体的になり、さらに芝居の進行にあわせ揺らぎながらよじれているという印象だ。すさまじい迫力だ。
松尾スズキがただものではないのがよくわかった。