これはストーリーを楽しむファンタジーだ。無理にでもそう割り切れば、いちおうは楽しめる作品にはなっている。
会社経営者のお嬢さまが、系列の場末のホテルに身分を隠して勤めている。そこにはなぜか超凄腕の料理人も、すねもせずに勤めている。よくぞまあ!というか、かなり甘ったるい設定だ。
主だった人物が登場すれば結末はおよそ見当がついてしまう。若干の波乱はあっても、ハッピーエンドに向かって一直線だ。
そのようなストーリーに加えて、単純な受けねらいの筆の勢いだけで書かれたようなセルフが多い。
例えば、経営者の父が、かって娘の料理を食べて2週間入院した、というせりふは娘への愛情表現であるにせよ、きちんとした位置付けがないまま書かれており、現実かユーモアかわからず、マイナスにしか働かない。笑うどころかとまどうばかりだ。
そのような全体の印象をぼやけさせ弱めるセリフが、いたるところちりばめられている。
そのようななかで、わずかに中国人留学生だけがリアルに描かれている。それは彼女が克服しがたいほどのきびしい現実に直面しており、自分が今変わらねば次への展開がないところまで追い込まれているためだ。中国語のリアルさがその現実感にリアルティを与えている。
これによってキャラクタと表現の多様性はでるが、全体からみれば若干の違和感はぬぐえないほどだ。
というように不満をいいだせばきりがないほどだが、観る側も堅いこと言わずに、やっている方の面白さにつきあうつもりで、肩の力を全部抜いて観るしかないのだろう。