この作品は、戯曲の発想のよさで見せる。
物語の作者と登場人物の交錯・交流というのは、芝居のなかでもときどき見かけるが、この作品は、ストーリーに不満な登場人物が作者に、芝居の中で出てきた「遠隔大脳操縦装置」というのを付けて、作品のエンディングを乗っ取ろうとするところまで広げ、作者と登場人物の円還を作ってしまった。そんなところまで行ってしまうという発想の飛躍を楽しんだ。
もちろんそこだけがいいのではなくて、作家の日常とスペース・オペラの空想の世界の交錯が、簡潔だがきちんと描かれていることがあるから、そのような発想の効果があるのだ。
スペース・オペラを書き始めた女性作家が、書いているスペース・オペラの登場人物に後押しされて書き進める。しかし、勝手に作者に要求を出したり、登場人物どうしがけんかを始めたりするのをなだめすかしなくてはならず、なかなか進まないところは笑わせる。
それが、作家の元恋人が結婚することを知ってから猛然と書き始める。
書き終わって、結末に不満な敵役の「さるこじゃ」という悪の女王から、作家は「遠隔大脳操縦装置」を付けられて、結末を勝手に変えられてしまう。
主役に仮託した元恋人の結婚で、主役そのものが疎ましくなった作家は、登場人物から期待されている続編の執筆を拒否するが、登場人物達に励まされ元恋人から自立していき、続編の執筆を約束する。
この自立はやや簡単に描かれているが、元恋人という温もりを失ったときの作家の寂寥感はじっくりと描かれ、身につまされる。
俳優は、テンポのいい生き生きとした演技を見せる。
述べてきたような発想のよさは演技にも反映していて、俳優の個性に合わせて役が設定されていることもあろうが、生き生きとした演技だ。俳優はそれぞれに個性的で、演技にも破綻はない。
広瀬健太郎の作品はこれで2本目(観たのだ3回目)だが、いずれもファンタスティックな装いをとりながら、人間のどうしようもない寂しさをうまく表現している。
このレベルの楽しめる作品だからもっと観客が増えてもいいような気がする。前売り券で1200円は廉い。